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【ソーシャルメディア活用(9)バンダイナムコゲームス】「『Yeah!』と言えば観客が『Yeah!』と返す」

※このコラムは、2012年5月28日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

今回は、ツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアに加え、ユーチューブも積極的に活用しているバンダイナムコゲームスに伺いました。プロモーション部でソーシャルメディアの運用を担当する山本理恵さんと塩入達也さんにお話をお聞きしました。

(左から:山本理恵さん 塩入達也さん)

炎上の不安、部門連携でクリア

——ソーシャルメディアを活用し始めたきっかけを教えてください。

塩入:ソーシャルメディアとして最初に取り組んだのはツイッターです。すでにツイッターの勢いを肌で感じていて、解決すべき課題はあるけれどまずはやってみよう、ということで、2010年5月にWebサイトを運用するWebマスターのアカウントとbotアカウントの2つを立ち上げました。

——立ち上げまでの課題はどのようなことだったのでしょうか。

塩入:ツイッター運用に賛成してくれる積極的な人ももちろんいたのですが、一方で「炎上の心配はないのか」といった慎重派の人も多く、そうした慎重派の人たちにも理解してもらうための活動が必要でした。特に日頃からお客さまとやりとりしているユーザーサポート窓口は「クレームが来たらどうするのか」「外に発信してはいけない情報を出してしまうのでは」という心配をしていたようです。

——その課題をクリアできた鍵はどこにあったのでしょうか。

塩入:さまざまな部門とちゃんと連携を取って進める体制を作ろう、ということです。具体的には、運用のガイドラインを作成することにして、ユーザーサポートやリスクマネジメントの部門の意見を取り入れていくことにしました。社内でもすでにツイッターを使っている社員も多く、放っておいて危険な発言をされるよりも、発言してはいけない内容を前もって定めておき、何かあったら連絡できるような体制を整えましょう、ということですね。

とはいえ実際に運用してみないとノウハウもわかりませんし、ツイッターを使ったことがない人がガイドラインを作っても、ルールが厳しすぎて結局何もできない。ということで「ガイドラインを作るためにもツイッターの運用を始めて、ノウハウをガイドラインに取り入れていく」ということを理解してもらい、ツイッターの運用を開始した、というのが経緯です。

——ツイッターを始めた時の運用体制は。

塩入:最初はツイッターアカウント担当が私1人で、もう1つのbotはプログラムを組める社員が担当していました。私はもともと広報担当で、コミュニケーションや文章作成についても多少ノウハウがありましたので、Webマスターアカウントを運用し、もう1つのbotは自動で情報を取得してきたり、面白いリアクションを返すプログラムで自動で運用していました。

ロックバンドのコンサートみたい

——始められた頃の手応えはいかがでしたか?

初期の頃はとても面白かったですね。フォロワーもどんどん増えていくし、よくも悪くもノールールで、手探りながらもツイッターにポジティブな空気を感じていました。例えるならばロックバンドのコンサートみたいで、ステージから「Yeah!」って言うと観客が「Yeah!」と返ってくるコールアンドレスポンスのような感覚でした。売り上げには直接つながらないかもしれませんが、大きな可能性は感じましたね。

——ツイッターと連携した「太鼓の達人」もiPhoneアプリで出されていますね。

山本:iPhone版「太鼓の達人」を手がけたのは私が当時在籍していた部署なのですが、新しいことをとりあえずやってみよう、という空気の部署だったので、実験的にツイッター連携を取り入れてみました。ゲームをプレイして「楽しい」と思ったその体験をツイッターを通じて友達に伝えて欲しい、というのが目的ですね。

ツイッターでの拡散はきちんと集計はできていないのですが、リリースして早々に100万ダウンロードを達成できました。これはソーシャルメディア対応のおかげもあったと感じています。

——現在はかなり多くのソーシャルメディアを運用されていますが、その管理体制はどうなっているのでしょうか。

塩入:アカウント運用者が情報を共有するメーリングリストを用意して、そこで運用に関する相談を受けつけています。バンダイナムコゲームスはゲーム会社ということもあってクリエイターの意向が強いので、ルールを定めて強制的に押しつけるよりも、何かあったら相談したり、部門ごとに連携できる体制を整えておきつつ、運用については自主性に任せています。

——ツイッターに続いてフェイスブックも開始しました。

山本:フェイスブックについてはすでに海外でパックマンのフェイスブックページが人気になっていたことと、ツイッターの前例があったので立ち上げは比較的スムーズでした。

塩入:ソーシャルメディア自体の認知も上がっていたことに加えて、ツイッターとフェイスブックの違いも大きいですね。ツイッターでは個人アカウントと企業アカウントの線引きができないのですが、フェイスブックは企業のためのページ機能があったので「これなら大丈夫ではないか」という安心感がありました。それに加えてツイッターの運用で「ソーシャルメディアとはこういうものだ」という認知が時間をかけて醸成できたことが大きいです。

フェイスブックはコミュニケーション重視

——ツイッターとフェイスブックを運用されて違いは感じましたか。

塩入:フェイスブックは個人名が実名で表示されることもあり、よく言えば炎上はしない半面、最初は盛り上げに苦労しましたね。コメントがなかなかつかなくて。

山本:ツイッターは好きなゲームの情報をリアルタイムに受け取る場所として認知されていますが、フェイスブックで同じようにニュースを出しても反応はなく、逆に宣伝扱いされて「いいね!」があまりつかなかったりします。その点では運用に工夫が大事で、ゲーム会社の中身が見えたり、ゲームのプロデューサーが写真で登場したりと、コミュニケーションを重視しています。

今では固定ファンもついていて、毎回熱いコメントをくれたりしますね。写真を多く上げていることもあって情報もわかりやすく、お客さまとの距離感はとても近くに感じています。

塩入:フェイスブックのほうがツールとしてさまざまな機能が実装されているので、うまくいくと情報の拡散も激しいですね。企業の公式ページとは別にガンダムのフェイスブックページを立ち上げて「一年戦争診断」というアプリをリリースしたところ大変な反響で、今では7万5000人のファンがつきました。こうしたアプリの実装はフェイスブックならではです。

また、拡散の方法としてツイッターにはRT、フェイスブックには「いいね!」がありますが、意味的には似ているものの、RTは自分のフォロワーへ情報を伝えるという点でハードルが高い。フェイスブックの「いいね!」は気軽につけられて、その結果情報が拡散されるという点で拡散の効果が大きいなと感じています。

——ユーチューブでゲームの動画も公開されていますね。

塩入:ユーチューブはツイッターやフェイスブックよりも前に運用を始めました。ゲームの動画はプロモーションの効果が非常に高いのですが、公式サイトに動画ファイルを用意するだけではなかなか拡散しませんし、そもそも公式サイトにも来てもらえない。ところがユーチューブに動画をアップロードするとmixiやブログなどで気軽に紹介してもらえます。大手ゲームブログになると公式サイトよりも再生回数が多い、なんてこともあり、単なる動画置き場ではない可能性を感じています。。

とはいえユーチューブ自体はソーシャルメディアという意識はないですね。ユーチューブを始めた当初も管理が難しいということでコメント機能をオフにしており、ユーチューブだけでのコミュニケーションは実現できていません。どちらかというとソーシャルメディアを通じてユーチューブの動画が拡散されるという組み合わせに期待をしていますし、そういう前提で運用しています。

ゲーム機のソーシャルメディア連動に取り組みたい


——ソーシャルメディア運用で「これは失敗だった」という思い出はありますか。

塩入:フェイスブックを始めた頃はある程度ノウハウもたまっていたのであまり失敗はないのですが、ツイッター初期の頃はいくつかありましたね。特に実感したのは時事ネタの扱い方です。時事ネタに関する発言はいろいろな価値観があり、よかれと思って発言した内容に賛否両論集まったこともありました。時事ネタに関する発言は難しい、といういい勉強になりました。

山本:フェイスブックの場合、ツイッターのノウハウを吸収していることもあるのですが、担当者の顔が見える運用体制にしていて、バナー画像も担当者の顔を見せたり、顔を出さなくても人形を用意してみたりと、ファンの人にかわいがってもらえるよう努めています。そうすることで自然と嫌なことを言う人も少なくなり、アドバイスをくれたり応援してくれる人も増えてきますね。

——ソーシャルメディアを通じて今後取り組みたいことはありますか。

山本:フェイスブックはすぐになにか結果を出すと言うよりも、長い目で見て信頼を獲得していく場所だと思っていますので、まずはファン数の獲得に努めたいですね。その上でもっとゲームのように楽しめるアプリなどを定期的に企画していきたいと思います。

塩入:ツイッターもお客さまとの双方向性を大事にしたいと思います。PS3やPSPで過去のゲームを遊べるサービスがあるのですが、ツイッターで「過去のタイトルで遊んでみたいゲーム」のアンケートを取ったところ大変な反響で、1000件以上もの回答をいただきました。そのアンケートの中で人気のタイトルを実際に配信することができ、こうした取り組みにソーシャルメディアの可能性を感じますね。

山本:あとはリアルとの連携ですね。バンダイナムコゲームスはイベントをたくさん開催しているのですが、何もしなくても会場の様子をツイッターやフェイスブックで発信してくれているお客さまがたくさんいらっしゃいます。この点はバンダイナムコゲームスとしてももっとプロモーション担当とイベント担当が一緒になって、イベントの楽しさを会場から拡散できる仕掛けを用意したいですね。

——「太鼓の達人」のようにゲームにソーシャルメディアを取り込んでいく可能性もあるのでしょうか。

塩入:今はほとんどのゲーム機がネットにつながっていて、ネットゲームとの境もなくなりつつあります。ゲーム機のソーシャルメディア連動やネット連携は取り組んできたい課題ですし、着々と考え始めているところです。


——インタビュー雑感
ソーシャルメディアだけでなく新しい施策に取り組む場合、社内の説得がひとつの壁になる、という話は多く耳にします。バンダイナムコの場合はガイドラインの準備によって部門の理解を深めつつ、そのガイドラインを作るためにもまずは運用が必要、という流れは、運用を開始するためにも非常に合理的と感じました。(アジャイルメディア・ネットワーク)

※このコラムは、2012年5月28日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


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