見出し画像

【ソーシャルメディア活用(12)カルチュア・コンビニエンス・クラブ】「リスクがあるからやめるということはありません」

※このコラムは2012年7月30日の 宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

今回はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)TSUTAYA カンパニー 商品本部でコミュニケーション企画を担当する山口秀夫さん、佐藤栄次さん、サイモン・グレイさんに、TSUTAYAを中心としたソーシャルメディア運用の取り組みをうかがいました。

(左から)サイモン・グレイさん、佐藤栄次さん、山口秀夫さん

「ソーシャルメディアは二の次」から体制一新


――始めにソーシャルメディアに取り組んだきっかけを教えてください。

佐藤:最初はブログですね。本部のマーチャンダイジング担当が運営するブログや店舗ごとのブログなどを2009年に開設し、そのあと少し間があいて2010年頃にツイッターとフェイスブックのアカウントを開設しました。

――最初にブログを始めた理由は。

佐藤:商品の告知やTSUTAYAならではのオリジナル特典の紹介など、情報発信ツールとしての使い方が中心でしたね。直営のTSUTAYA店舗ではアイドルの握手会などイベントも開催していますし、六本木にはインストアライブ用のイベントスペースもあります。そうしたTSUTAYAの情報を発信していました。ブログはアメブロを使っていたのですが、当時はアメブロと店舗ブログを定期的に増やそうと活動していましたね。

――ブログは主に情報発信とのことですが、その後ツイッターやフェイスブックを始められたきっかけは。

佐藤:ツイッターもフェイスブックも2010年頃にアカウントを作っていたのですが、専任の部署があったわけではなく、フェイスブックのアカウントなどは人事担当が採用活動を目的に立ち上げた、というのが実際のところです。

山口:ただ、立ち上げたのはいいものの、採用が目的だったので、アカウントの運用は続かず放っておかれた状態になっていたのを、TSUTAYA onlineの担当が引き受けて1人でツイッター、フェイスブックともに運用を開始しました。その後今年の4月になって我々が運用をさらに引き継いだ、という流れです。

佐藤:ツイッターの当時の担当者はソーシャルメディアを使い慣れていたようで、TSUTAYAというブランドの効果もあってか、特にプロモーションもせずに2万人近いフォロワーを集めていました。ただ、1人での運用はなかなか手が回っていないという状況だったようです。そのため、今回よりソーシャルメディアやエンゲージメントに力を入れるための部署編成に合わせ、我々の部署でソーシャルメディアの運用を引き継ぎ、本格的に担当することになりました。

――本格運用するようになった狙いはどこにあったのでしょうか。

山口:ソーシャルメディアは「やらなければいけない」という意識は肌で感じてはいました。ただ、我々にはTSUTAYA onlineという1つの成功事例があったのでどうしてもTSUTAYA onlineメインで考えてしまいソーシャルメディアは二の次というのが実情だったのですが、時代の流れが人々のコミュニケーションに移るのを見ていて「これはしっかりやらなければいけない」と、昨年体制を一新しました。

インターネットの世界ではAmebaやmixiなど、一世風靡したプラットフォームが数年単位で移り変わっていきます。ヤフーやグーグル、ツイッター、フェイスブックもしかりです。そうした時代の中で、TSUTAYA onlineをその時々で流行したプラットフォームに合わせていこうとするとどうしても無理がでて、サービスもつぎはぎになってしまうし、お客さまにも使いにくいものになってしまう。それよりはソーシャルメディアそのものを自ら運用することで世の中の流れに対応していこうと考えました。

フォロワーから「中の人変わりました?」


――開始直後はどのような運用をされていたのでしょうか。

山口:引き継いだ直後はまだあまりコストもかけられなかったので、まずは外部の情報を集めたり、他の企業のアカウントを参考にしながらガイドラインや運用ルールを決め、本格的に運用をし始めたのが今年の4月のことです。

佐藤:アカウントを引き継ぐ直前に、東日本の店舗で旧作のDVDレンタル料金100円という施策を開始していたので、このタイミングでこのニュースを拡散できないか、ということは考えていました。この100円レンタルが始まったことを認知して欲しい、という思いで、「#好きな映画頼んでTLをTSUTAYAにする」というハッシュタグをつけてツイートしたところ、大変な反響をいただき、ハッシュタグがツイッターのトレンド入りを果たしました。同じタイミングでツイッターの広告を出稿したこともあって、フォロワーも大きく伸ばすことができました。

佐藤:前任者も順調にフォロワーを伸ばしていましたが、2万人を超えて伸び悩みが見えていたところに、100円というニュースと出稿を組み合わせることでユーザーへも大きくアプローチできました。ソーシャルメディアとTSUTAYAは非常に親和性があり、コミュニケーションツールとしての可能性を感じましたね。

――実際の運用はどなたが行われているのでしょうか。

佐藤:ツイッターの運営は私が担当していて、1日3回程度のツイートを基本にしています。内容はあらかじめ原稿みたいなものを用意しつつ、その日に起こっている話題やトレンドに入っている話題などをチェックしつつ、「ゆるい」空気を意識していますね。

以前までのアカウントは商品情報の提供が中心だったのですが、ニッセンさんのような親しみが持てるようなアカウントにしたい、情報発信ばかりでなくてフォロワーからもレスポンスが来る、そういう愛されているブランドにしたいなと思って運用していました。実際、2週間ほど経つと「中の人変わりました?」とか、「最近TSUTAYAのアカウントが面白いぞ」と言ってもらえるようになり、大変嬉しく感じましたね。

――担当を代わられたばかりで非常にうまく運用されているようですが、それまでソーシャルメディアの経験はあったのでしょうか。

佐藤:個人でブログはやっていたので多少の温度感みたいなものはつかんではいましたが、企業として情報発信するのはまた別ですね。企業を代表しての発言になるので真摯に対応する必要がありますし、1つの発言で機嫌を損ねられてしまう可能性もあります。最初の頃は「ここまでくだけていいのかな?」と塩梅に苦労しました。

空いた時間にTSUTAYAを使ってもらうことがゴール


――社内で運用される際のガイドラインなどは策定されているのでしょうか。

佐藤:こういうケースではこうしましょう、と厳密に落とし込むのは難しいので、ToDoというほど細かくは策定していません。

山口:ソーシャルメディアの運用心得、に近いですね。そうしたガイドラインを全店舗に配布した上で、ソーシャルメディアを運用したい場合はエントリーして認可を得る形にしつつ、コミュニティガイドラインやソーシャルポリシーを模索しているところです。

佐藤:弊社も東日本大震災の直後にソーシャルメディアの運用を失敗した時期があったのですが(注)、そうした自社の事例も踏まえて他社の失敗事例も研究しましたね。アカウントを作ったからにはきちんとそうした配慮も行おう、と思っていました。

(注)震災直後、TSUTAYAの店舗アカウントが「テレビが地震ばかりでつまらない人はTSUTAYAにご来店お待ちしております」という旨の発言を行い、不謹慎だという指摘を一部で受けている。

――そうした失敗がありながら「ソーシャルメディアは危険だからやめよう」ということにならなかったのはなぜでしょうか。

佐藤:不思議とそうはならなかったですね。

山口:TSUTAYAはエンターテインメントを提供する立場として、お客さまにはいろいろな情報を知った上で反応していただかなければいけないというのは全社的に思っていることですし、リスクがあるからやめましょう、という、待っているだけの姿勢はあり得ないと思っています。やめるのではなくちゃんとルールを作って、お客様に楽しんでいただくにはどうすればいいか、という方向を向いた。

佐藤:世の中の流れとして企業を含めソーシャルメディアのユーザーが増えていくのを見ていて、(失敗があったものの)今、ソーシャルメディアの活用を止めるべきではない、という思いもありましたね。

山口:エンターテインメント業界は非常に厳しい業界で、人々の自由に使える余暇時間の中で映画や音楽を見たいと思ってもらわなければいけません。そのためには映画や音楽を素晴らしいと思っていただくことはもちろん、お客さまの輪の中にこちらから飛び込んでいく必要があると考えています。

佐藤:1時間か2時間空いたときにTSUTAYAを使ってもらう、それが我々のゴールです。そうなるためにソーシャルメディアを使って皆様のところにおじゃましていく、という感じですね。

ツイッターは旬な情報、フェイスブックは画像が重要


――フェイスブックはどのように運営されているのでしょうか。

サイモン:フェイスブックは私が担当していて、1日1投稿、面白いネタがある日はそれよりも多く投稿しています。

私が引き継いだばかりの頃はSHIBUYA TSUTAYAのツイッターの情報をフェイスブックへ転送しているだけで、ファン数も1300程度だったのですが、それからは単なる商品情報だけでなく、エンタメ情報をTSUTAYAならではの視点で投稿するようにしました。フェイスブックを分析してみると土曜日と日曜日のアクティビティが落ちているのがわかったので、それからは休みの日も投稿するようにしたり、少しで TSUTAYAに興味を持ってもらえればいい、と続けた結果、最初の1カ月半で600から700近いファンを増やすことができました。その後はフェイスブックキャンペーンも組み合わせることで、今では6000近いファンを獲得できています。

――ツイッターとフェイスブックで運用に違いはあるのでしょうか。

佐藤:ツイッターの情報は旬なものが喜ばれますね。例えばテレビで「風の谷のナウシカ」が放映されたときは、それに合わせて(ナウシカのスタッフでもある)庵野秀明監督が手がけた特撮博物館の情報をツイートしたときは、運用直後の時期ながら100以上のRTをいただいたりもしました。

山口:フェイスブックは画像ですね。お店のスタッフを紹介することでスタッフの顔を伝えられたり、普段は聞くことができない店舗でのいい話などを紹介することもできます。

佐藤:ツイッターは旬が合うな、というのは運用しているうちに気がついてきて、その中でもトレンドやハッシュタグが1つのポイントかな、という手応えもありました。ハッシュタグ以降も何かできないかな、と考えているとき、「#好きな映画の特徴を3つ言って当ててもらう」というハッシュタグがツイッターで盛り上がっていて、そこで挙げられていた作品をTSUTAYAアカウントで勝手に集計する、という企画を行ったところ、これも好評で400近いRTがありました。

盛り上がって楽しんでいる人がいるところにお邪魔させていただいて、その盛り上がりを邪魔しないように一緒に楽しませてもらう。これは1つの定番パターンかなと感じていますね。

――今後取り組んでみたい施策はありますか。

山口:これはあくまで個人的な興味ではありますが、LINEやPinterest(ピンタレスト)は今後チェックしていきたいですし、機会があれば参加してみたいですね。エンタメとビジュアルという組み合わせは、権利が難しいですがありそうな組み合わせだと思いますし、お店の制作物であれば写真系とは相性が良いかもしれない。法務的な問題もありますので簡単ではありませんが、Pinterestのようなビジュアル系のサービスは今後もウォッチしていきたいと思います。

ソーシャルメディアとしての運用については正直出遅れている面があるので、まずは現在運用しているアカウントを早急に挽回していきたいですね。TSUTAYA onlineは1500万人以上の会員を抱えているので、ソーシャルメディアの会員が数万人程度では正直まだまだ規模が小さいと思っていますし、ある程度のボリュームを育てつつ、その他のサービスも検討しながら広げていきたいと思っています。

――インタビュー雑感

単なる情報発信ツールとしてソーシャルメディアを活用するのではなく、どのような取り組みをしたら自社のお客さまに参加してもらえるのか? 楽しんでもらえるか? を、試行錯誤しながら取り組む姿勢は、他の企業も参考になるのではないかと思いました。(アジャイルメディア・ネットワーク)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?