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【ソーシャルメディア活用(13)カプコン】「販売数が落ち着くとソーシャルの盛り上がりも一段落してしまうのが課題です」

※このコラムは2012年8月20日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


今回はカプコン CS事業統括 CS営業推進部 プロモーション企画推進室の室長を務める増田努さんとコミュニケーションプランニングチームの米山輝之さんに、ゲームメーカーの考えるソーシャルメディアの取り組みを伺いました。

ソーシャルメディア活用は米国販社が先行


――ソーシャルメディアを使い始めたきっかけを教えてください。

増田:使い始めた時期というとかなり古い話になるのですが、実際にはソーシャルメディアを活用していたのは米国の販社が先です。米国ではお客様に参加いただくコミュニティメディアとしてユーザーを集めながら情報発信する形式で成功していました。

日本でもゲームタイトルに紐付いた形でソーシャルメディアのアカウントを立てて情報発信していたのですが、米国に追従する形で日本もソーシャルメディアへ本格的に取り組むことになりました。

――初めに国内で始めたソーシャルメディアは何ですか。

米山:「@iCAPCOM」というツイッターアカウントを2009年に始めたのが最初ですね。当時カプコンでは、iPhone向けゲーム配信の取り組みを始めたところで国内外のユーザー向けにiPhoneアプリ情報を発信するアカウントとして立ち上げました。

増田:もともとアカウント自体はモバイルの部署で運用していたものを、最近行った組織編成で我々の部署で担当するようになったというのが経緯です。ほかにもキャンペーンの応募として「つぶやいてくれたらプレゼント」というような応募手段に使ったりと、コミュニケーションというより情報発信のツールとして活用を始めました。

――情報発信が目的とのことですが、ソーシャルメディアを使い始める上で炎上などの心配はありませんでしたか。

増田:そこはかなり気をつけているところですね。我々だけでなく他のゲームメーカーさんも一緒だとは思いますが、ツイッターだけでなく掲示板なども含めて、ユーザーが自分の意志で書き込める場所は非常に気を遣っています。

我々もファンクラブの形式で交流できる仕組みは持っていますが、ユーザー登録以外のコミュニケーション部分はmixiやフェイスブックなど外部のサービスを利用していただく形にしていて、できるだけ個人を把握して炎上がしにくい状況で交流してもらえるようにしています。

SNSとリアルイベントでファン同士の交流の場を提供


――本格的にソーシャルメディアに取り組みはじめた経緯を教えてください。

増田:きっかけは先ほども話に上がった通り、海外で先行していた「CAPCOM Unity」というコミュニティですね。アメリカやヨーロッパではネット上でのユーザーの反響が売り上げに影響するという点で日本より先を行っていますが、日本も遅ればせながらそういう時代が来ていますし、見過ごせない分野だと認識していました。

海外の動向を踏まえて本格的に力を入れ始めたのは2011年秋頃のことです。米山がいる部署を新設し、ユーザーとのコミュニケーション接点を集約することにしました。米山はユーザーとのコミュニケーションを図る担当で、モンスターハンターのコミュニティ「モンハン部」の編集長として、記事の展開やリアルイベントの展開などを彼が主導して展開しています。

カプコンは取り扱うゲームもジャンルが幅広く、アプローチもゲームタイトルごと個別に展開していたため、きちんとしたルールが設けられていませんでした。現在はコミュニケーションの部署を統合し、新たにソーシャルメディアを使いたい、という申請を受けてから開始すると共に、運用のための基本的なガイドラインも策定しています。

――「モンハン部」はどのような経緯で開始されたのでしょうか。

増田:「モンハン部」のターゲットであるモンスターハンターシリーズは、プレイヤーが顔を合わせて楽しむゲームという点で非常にコミュニケーション要素が強く、そのコミュニケーションをつないでいく場所を作りたい、という考えで始めました。

米山:開設したのは3年前の2009年4月で、「モンスターハンターポータルブル2nd G」が発売され、もう少しで「モンスターハンター3(tri)」が発売になる、という時期です。ただし、すでにその時点でモンスターハンターのユーザーは非常に多く、ネット上でもいろいろなコミュニティが運営されていました。我々としてはそうしたコミュニティを無視して新たに始めるのではなく、むしろ既存のコミュニティを大事にしつつオフィシャルのコミュニティをはじめることにしました。

増田:まずは携帯サイトとしてモンハン部を立ち上げ、1年ほどかけてコンテンツや運営ノウハウやなど充実させていきました。さらにツイッター、mixi、フェイスブック、そしてサイト自体のPC化に対応し、既存のコミュニティともつながる形で運営しています。特にmixiではモンスターハンターのコミュニティがとても盛んなので、そうしたコミュニティのリーダーを集めてイベントを開催したりと、リアルイベントでユーザーがコミュニケーションを作ることに注力しています。

先日も社会人限定のモンハン交流会、というものを開催しました。社会人だとなかなかモンハンを一緒にプレイする機会も少ないですから、飲み物や食べ物を楽しみつつ自由にモンハンを楽しんでください、という場所を提供し、参加したユーザーのコミュニケーションはSNSなどのコミュニケーションで広げていく、そういう役割分担をしています。リアルイベントは力を入れていて、モンハン女子会を開催したり、米山が自ら出かけていって地方のコミュニティでイベントを開催したりしていますが、いずれも好評ですね。

ゲームごとのコミュニティの一本化を目指す


米山:私はそうしたイベントの活動をそれぞれのソーシャルメディアで発表して、モンハン部がどんな取り組みをしているのかを伝えることにしています。オンラインのコミュニケーションはソーシャルメディアに任せ、我々はネットワークだけではないオフラインのつながりを広げる役目です。

――米国のCAPCOM-Unityではオンラインで直接ユーザーとコミュニケーションしているとのことですが、そうした取り組みはされるのでしょうか。

増田:CAPCOM-Unityは本当にユーザーと直接やり取りしているのですが、それを実現するための文化の違いは大きいですね。米国は実名主義で誰が発言しているのかもわかりますし、コミュニケーションも個人と個人でやり取りしています。日本はどうしても匿名文化が強く、同じことをそのまま取り入れてもうまくいかないでしょう。ユーザーとのコミュニケーションは今後の課題ですが、どのように取り組むかは慎重に検討したいと思います。

――バイオハザードでもモンハン部のようにコミュニティを運営されていますが、コミュニティの違いなどはありますか。

米山:基本的には変わらないのですが、ユーザーの年齢層がモンハンに比べて高く、コミュニケーションよりもゲームの情報が欲しい、よりバイオハザードを深く知りたい、という方が多いですね。そういう意味ではモンハン部に比べると、ちょっと大人な感じのファンクラブになっていると思います。

――モンスターハンターもバイオハザードも歴史が長くファンの多いタイトルですが、新規タイトルでもこうしたコミュニティは運営されるのでしょうか。

増田:弊社の新規タイトル「ドラゴンズドグマ」は50万本近いセールスなのですが、ソーシャルメディアを活用するかは悩みどころですね。ある程度販売数が落ち着くとソーシャルの盛り上がりも一段落してしまうので長続きしない、というのが課題です。シリーズとして次が決まっている場合はそこから盛り上がりを起こせるのですが、今のところは新規タイトルごとにコミュニティを立ち上げる、ということはありません。

むしろ我々が目指しているのはゲームごとにファンサイトを作るのではなく、それぞれのファンサイトを統合して会員組織を一本化する仕組みですね。課題も多くなかなか動きを見せられていませんが、早期に立ち上げたいと考えています。

また、ゲームメーカーならではの取り組みとして、Web上だけでなくゲームと連携した仕組みも展開していきます。例えばドラゴンズドグマは自分以外に「ポーン」というキャラクターがいて、このポーンをオンラインで他のユーザーに貸し出せるのですが、ポーンの返却時にコメントやプレゼントを渡したりというコミュニケーションができるようになっています。また、フェイスブックやツイッターを介してゲーム中の写真をアップロードする仕組みなども実装しています。

今後はこうしたゲームとソーシャルメディアの連携をもっと強化させる予定で、そのためにもカプコンが現在展開しているファンサイトなどのユーザーのIDを1本化する仕組みが早急に必要になる、と考えています。

ニコ動のゲーム実況動画に関心


――ソーシャルメディアの運用体制はどのようになっているのでしょうか。

米山:運用は私がメインで担当していて、ファンクラブは私と大阪にいるチームで、Webサイトなどのメインとなるコンテンツは数十人体制のチームで運用しています。mixiやフェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディアは一元管理していて、私が一人で運用しています。

――ソーシャルメディアを運用されていてよかったこと、難しかったことはありますか。

米山:良かったことより難しいことのほうが強いですね。ツイッターアカウントは、モンスターハンターだったらすぐにフォローが伸びるだろう、と思ったらなかなか伸びなくて(笑)、苦労の連続でした。

弊社のスタンスとしてユーザーと直接コミュニケーションは取らないのですが、それをせずにどれだけフォローを伸ばすのか、というのは試行錯誤しましたね。フェイスブックであれば投稿の最後にユーザーへの質問を投げかけてユーザーが参加しやすい文章にしたり、モンスターハンターの場合はくだけた文章やユーザーでないとわからない用語を使ったりと、一方通行にはならないような情報発信を心がけています。

――ユーチューブなどの動画サービスも積極的に活用されていますね。

増田:今までのゲームプロモーションはゲーム雑誌で初めて発表する、ということが多かったのですが、バイオハザード6ではタイトル名も社名も出さずにユーチューブで「何かが発表されるよ」というプロモーションを行いました。結果として発表したゲーム映像は200万回を超えるほど再生され、ゲームの発表の仕方が変わって来たな、と実感しています。将来的には会員登録しているユーザーに向けて先行発表する、という形式も出てくるでしょうし、そうした流れにシフトしていくのではないかなと感じています。

――今後取り組んでみたいソーシャルメディアの施策はありますか。

米山:ニコニコ動画などで配信されているゲームの実況動画は公式でやってみたいですね。ただし、動画は見せたい気持ちもあるものの、攻略情報がオンラインに出過ぎてしまう、という心配もあります。とはいえニコニコ動画のようなコミュニティは独特の文化だけれど一番濃いユーザーが集まっている場所でもあるので、できるだけそういった文化も吸収していけたら、と思います。

――インタビュー雑感

ファン同士のコミュニケーションの活性化のため、オンライン上のコミュニティをつくるだけではなく、リアルのイベントも絡めファン同士の繋がりをより強固なものにしようという取り組みは他の企業にとっても非常に参考になる事例だと思いました。(アジャイルメディア・ネットワーク)


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