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アンバサダープログラムを取り入れて売り上げ25%アップの成果(日本ケロッグ)

※このコラムは2016年5月13日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

【前回の記事】「市場拡大のために、広告では届かない層へのクチコミが必要だった(日本ケロッグ)」

100周年キャンペーンで、売り上げ前年比25%アップ


藤崎:今年2月の日経MJの記事によると、アンバサダープログラムを含む100周年キャンペーンで売り上げが上がったそうですね。

五味田:対前年比で「オールブラン」シリーズ全体の売り上げが7%アップしました。中でも商品ヒーローとして押している「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」は対前年比で25%の伸びになりました。

藤崎:それはすごいですね。確か昨年はテレビ番組で「オールブラン」シリーズが紹介されて、一時期、購入者が殺到して品切れになりましたよね。

五味田:あれはまったくの偶然でした。昨年は「オールブラン」シリーズが誕生して100周年ということで、360度プロモーションを年頭からスタートした影響もあり、ずっと2桁で伸びていたのですが、テレビ番組での露出が重なって「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」の品切れが発生してしまい、最終的には1桁で着地しました。

藤崎:前年比アップには、テレビ番組での露出が大きかったということでしょうか。

五味田:それもあると思いますが、品切れでぽっかり2、3カ月あいてしまいましたので、瞬発的に売れたのではなく、年間を通して売れたということだと思っています。またこうした売れ筋商品で品切れ期間があった状況を考えれば、最終的に「オールブラン」シリーズの7%アップは、かなり良い成果が出たと思っています。

藤崎:それは良かったですね。

五味田:アンバサダープログラムが効果を発揮して、「オールブラン オリジナル」が抱えていた「おいしさ」に対するバリアに対しては、食べてみれば意外とおいしい、というクチコミが起きました。「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」は「最近はこういうおいしい商品もあるんだよ」というクチコミを醸成することができ、それが結果的に数字にも結びついたと分析しています。

藤崎:特に「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」の対前年比25%アップは素晴らしいですね。

五味田:「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」も新商品ではないので、トレンドとして多少は下がってしまう傾向もある中で、ここまで数字が伸ばせたのはとても良かったと思っています。

「オールブラン」シリーズの中でも「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」は、今、イチオシの商品としてアンバサダーさんにお伝えしており、クチコミもそれなりに大きなボリュームを占めています。そうしたアンバサダーさんの後押しもあり、売り上げが25%アップしました。この数字は、弊社としては新しい試みとして始めたアンバサダープログラムも貢献していると考えています。

藤崎:いろいろな要素があったとは思いますが、アンバサダープログラムが実際の売り上げに貢献できたことが証明されたよい事例だと思いました。

ところでアンバサダープログラムの目標設定は、どんな風に決めたんですか?

目標設定はできるだけシンプルにしようと思った


五味田:「量的な目標」と「質的な目標」の2つを設けました。まず、最初に心がけたのは、どちらもできるだけシンプルな目標にすることでした。と言うのは、新しいことを始める時に、たくさんの指標を作ってしまうと、後々分析した時に、「これは結局どうなんだろう」という話になりがちだからです。

まず「量的目標」ですが、こちらは「アンバサダーの人数」と、発言がSNSに載った時の「広告換算金額」の2つの指標を設定しました。1000人の登録を年間目標にしていたのですが、1年ちょっとで3500人まで増やすことができました。これは誘導に予算をかけたこと、「オールブラン」とアンバサダープログラムの親和性などが相まって得られた数字だと思います。「広告換算金額」も計算して立てた当初の金額をクリアすることができました。

次に「質的な目標」ですが、これは商品的な課題だった「おいしさ」と「効果効能」に関するクチコミ量の増加を目指しましたが、これもアンバサダーさんの非常にパワフルなクチコミによって多くの感想が生まれました。

それらの目標がクリアできて、さらに売り上げが上がったということになります。

藤崎:ケロッグさんでは調査を重視されているとお聞きしましたが。

五味田:はい。新商品を作る時も普段のマーケティングでも何度も念入りに消費者調査をおこなう社風があります。その意味では、実際の消費者であるアンバサダーのみなさんの話を直接聞く機会を持てるようになった価値は大きいです。

藤崎:調査に厚みがでますよね。

五味田:私たちには、一番重要なのは消費者であるという考え方が定着しています。いわゆるコンシューマーインサイトをしっかり掘り下げていこうということで、マーケッターの私見よりは、消費者の意見が重視されます。


生の意見が重要。すごく実感がある。


藤崎:私自身もマスマーケティングをやってきましたが、アンバサダーの人たちの発言は、今までのユーザー調査とは全く違う印象ですよね。

五味田:その通りです。アンバサダーさんの声にはすごく実感があり、とても生っぽいのが特徴です。そのリアルな声は一般的な「ユーザー調査」からは得られない説得力に満ちています。実際の生活体験に基づくご意見がとても参考になります。アンバサダーさんの記事から「これはすごくいい」と、参考にさせてもらった表現もあります。

また、一般的なユーザー調査と大きく違うのが、そもそもブランドのファンとしてのご意見だという点です。みなさんとてもブランドのこと考えてくださっていたうえでの意見ですので大変貴重です。

他には例えば、こちらから聞かなくても、「こういうレシピを考えたんですが、どうでしょうか」と言ってくれたり、プロモーションのアイデアを提案してくれたり。ブランドの今後を考えてくださっている方々と一緒に動いているという一体感があります。

藤崎:いわゆるパートナーというか、企業とユーザーの新しい関係ですよね。

五味田:そうなんです。ですので、最近はアンバサダーイベントが近づくと、社内では「次はこういうことを聞いてみようか」とか、「今ブランドが抱えている問題を相談してみよう」などという話になります。実際に、アンバサダーのみなさんはアンケート用紙にすごく一生懸命に書いてくれます。その一枚一枚に貴重な情報が詰まっていますので、それを読みながら私たちも「では、こういう風にしていこうか」という参考にしています。

藤崎:本当に熱心なんですね。

五味田:アンバサダープログラムに1年取り組んで、ファンの方々が、すごく意欲的・情熱的で、予想していた以上の質の高い情報を発信してくださることがわかりました。
そうした情熱にこたえるためにも、例えば今後のイベントでは、もっと深い情報をお伝えしてもいいのではないかと思っています。

例えば、弊社ではさまざまな専門家による第三者機関を組織しており、年数回、専門的なリリースを出していますが、今後は、そうした先生方をアンバサダーイベントに招き、食物繊維に関する科学的な話や、お医者様からの医学的な話をもらい、より深い情報を発信していくというのもありかな、と考えています。

藤崎:今後の課題について教えてください。

1年目の成功を受けて、お母さん向けプログラムを開始


五味田:課題は大きく2つあります。まず1つ目は、アンバサダーさんの質的な充実です。最初の1年目は人数を増やすというフェーズでした。それが年間目標の3.5倍を獲得することができたので、次はより発言力の強い方にどうやって参加してもらうかが課題です。どうすればアンバサダープログラムの強い型を作れるかということですが、これはある程度試行錯誤でやっていくしかないと思っています。

2つ目の課題は、他ブランドでの展開です。今年から、子ども向けブランドである「フロスティ」「ココ」を軸にして、「ケロッグママ アンバサダー」を始めました。今年の課題はこのプログラムを成功させることです。

藤崎:「ケロッグママ アンバサダー」を始めたきっかけを教えてください。

五味田:ケロッグには子ども用の商品がありますが基本的にはお母さんたちがお店で買うかどうかを決めます。そうしたお母さんたちも今やクチコミを重視していて、実際にSNSも使っているというデータがあります。ですので、そうしたお母さんたちに、お子さんに必要な栄養に関する知識や、ケロッグのシリアルっておいしいんだよ、という情報を受け取ってもらえるような仕組みを作りたいと以前から思っていました。

そこでオールブランの成功を受けて、アンバサダーという手法に取り組むことにしました。もちろんオールブランとは違うタイプの人たちですので、実際に運営していきながら、どういった発信の仕方だと受け止めてもらえ、より拡散して頂けるのか考えていきたいと思っています。

藤崎:アンバサダープログラムに感じている、今後の可能性について教えてください。

五味田:今後の可能性として着目しているのはアンバサダーさんの意見の反映です。みなさんの熱心な意見はとても参考になりますので、どんどん反映させたいと思っています。具体的にはプロモーションや新商品の開発など、一緒にやっていけることを、いろいろ追求していきたいと考えています。

藤崎:どんどん広がって行く感じですね。

五味田:まさにそういう感じです。実際に運営していく中で、「こういう活用の仕方もあるんだ」という気づきが次々と見つかっていく予感がしますので、フレキシブルにオープンに見ていき、「こういうこともいいな」ということがあれば、随時、柔軟に対応してプランの中に入れ込んでいこうと思っています。

藤崎:私はアンバサダープログラムとは理念や思想であって、内容はブランドごとに違うものだと思います。つまりブランドごとにカスタマイズして運営されるべきですし、運営してみて始めてみてわかること、柔軟に対応していく必要もあると思っています。その意味で今おっしゃられたように、アンバサダーとのやり取りによって、プログラム全体をフレキシブルに発展させていくことは重要で、ケロッグさんの場合は大変理想的なプログラム運営だと思います。

五味田:確かにそうだと実感しています。こういうマーケティングはとても新しいやり方だと思います。取り組み自体に意義があり、柔軟性のあるプログラムだと思いますので、今後いろいろ進化させていきたいと考えています。

藤崎:リアルタイムマーケティングの時代です。“進化させていく”というのは素晴らしいと思います。

藤崎:そういえば、昨年はテレビCMのぶら下がりで「アンバサダー募集中」というスーパーが出ました。また3月の新製品発表会でも、プレスキットの中に「ケロッグママ アンバサダー」の告知が入っていました。

五味田:私たちは、アンバサダープログラムを、ケロッグが考える360度プロモーションのかなりコアな部分に位置づけています。だからいろんなところでシナジーを出していこうと考えています。

また、私は今のいわゆるマスメディアで足りない部分を、アンバサダープログラムがいろんなカタチで埋めていってくれるんじゃないかと期待しています。

藤崎:PR視点で言うと、企業がコアなファンと一緒に活動しています、という活動自体にPR効果も期待できるでしょうね。

五味田:近年は消費者の声を聞こうということで、どこの会社もそうした姿勢を謳っていると思います。その意味で、アンバサダーの方々は、消費者であり、顧客であり、ファンの方なので、その方たちの声を取り入れたり、一緒に活動をおこなったりすること自体、会社が次の成長に向かって進んでいると思っています。

藤崎:今の時代に一番要求されている企業とユーザーの関係がここにある気がします。そもそもケロッグというブランドにちゃんとストーリーがあるということが一番の原動力になっている気がしますね。

五味田:確かにそうですね、もともと保養所からスタートして、保養所の人に健康的なものを食べさせたいということで作られたのがシリアルで、創業したケロッグ兄弟の意志をずっと引き継いでやっているという会社の歴史と物語があります。

藤崎:そうしたファンの人たちから愛されるストーリーがあるということが大事ですよね。

五味田:まだまだお伝えしたいファクトがたくさんあります。

日本の事例を世界に広げたい

藤崎:ケロッグはグローバルな会社ですが、他の国ではこうした取り組みはおこなっているんですか?

五味田:他国でも“ブロガーさんに商品を配る”というのはありましたが、今回のようなアンバサダープログラムはほとんどありません。そこで、私たちの成功体験を参考にしてもらおうと、今、まさに日本の事例を紹介しています。ファンと積極的にコミュニケーションすることで、こんなにいいことがあった、売上も上がったと、主にアジアパシフィックのリージョンに紹介している最中です。

藤崎:今後は日本の事例をモデルケースとして世界に波及していくといいですね。

今回のポイント

アンバサダープログラムを含む100周年キャンペーンの成果として、売り上げ対前年比25%アップ
目標設定はできるだけシンプルにしようと思いました。
最大の魅力は自社のファンと直接会えること。
生の意見が重要。すごく実感がある。
1年目の成功を受けて、「ケロッグママ アンバサダープログラム」開始
アンバサダープログラムは進化するもの
マスメディアで足りない部分を埋めてくれるという期待。
日本の事例を世界に広げたい


今回のまとめ

ケロッグの売り上げアップ(「オールブラン」シリーズ全体の売上げ:対前年比7%アップ、「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」の売上げ:対前年比25%アップ)は、もちろん複数の施策が相乗効果を発揮した結果です。しかし、アンバサダープログラムが、こうした具体的な結果に貢献できたことは大きな成果です。ケロッグは360度プロモーションのコアにアンバサダープログラムを位置づけています。
ここで考えられるのは、企業が次の成長を目指す時のギアに、アンバサダープログラムがなれるのではないか、という仮説です。企業がファンとおこなうマーケティングには、大きな可能性があります。そのカタチはまさに「進化していくもの」。企業の意思や熱意がダイレクトにファンに伝播していくのも特徴ですね。

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