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アンバサダーとの企画会議から番組が誕生(スカパー!映画部)

※このコラムは2016年6月28日の、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


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スカパー!は2014年から、「スカパー!映画部」アンバサダープログラムを運営しています。なぜファンとのリレーションをつくる活動を始めたのか、その効果についてどう感じているのか、お聞きしました。

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今回のゲスト

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植田恭輔(うえだ きょうすけ)
スカパーJSAT 有料多チャンネル事業部門 放送事業本部 放送営業部 企画プロデュースチーム アシスタントマネージャー
テレビ制作会社勤務を経て、2005年入社。映画ジャンルを中心に、様々な専門チャンネルと協業し、コンテンツの制作・調達からPRまでを一気通関でプロデュースする業務を主に行う。これまでに「スカパー!ジョニー・デップ祭り」(2007)、「スカパー!映画部 各種企画」(2010~)「BSスカパー!特番 映画人シリーズ」(2013・2015)、「スカパー!×TOKYO FM 日本全国・シネマテーク プロジェクト」(2015~)などをプロデュース。

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なぜファンとのリレーションを強化したのか?

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藤崎:アンバサダープログラムの開始に先立ち、2010年から「スカパー!映画部」という活動を始めていますね。映画部を発足した理由から教えてください。

植田:ご存知の通りスカパー!は多チャンネル、多ジャンルの有料映像プラットフォームです。スポーツや音楽、ドラマなど多くのジャンルがありますが、その中でも映画は最も視聴意向者数の多い人気ジャンルとなっています。しかし、競合サービスも多く、どうやってスカパー!映画ジャンルのブランド価値を高めていくかが課題でした。

藤崎:確かに映画というジャンルは、レンタルビデオに始まり、宅配サービス、Web配信など、多くの会社で競ってきましたよね。

植田:だからこそ、我々の強みをアピールする旗印を持つ必要がありました。そこで「スカパー!映画部」という屋号のもとに活動を行い、長い年月をかけてでも、さまざまな取り組みの結果がネット上に蓄積していくことを目指しました。

藤崎:当時、実施していたことを教えてください。

植田:2010年の発足時に、2つのことを始めました。1つは、情報番組の製作。もう1つは「スカパー!映画部」というTwitterアカウントの開設です。当時は、テレビCMもオンエアしていましたね。

藤崎:その情報番組は、加入者しか見ることができないものだったのですか?

植田:誰でも無料で見られる番組です。スカパー!のプロモーション用のチャンネルがあり、「スカパー!映画部 ホメシネ」という番組でした。これから放送される映画の宣伝番組なのですが「部員のお薦め」という体裁をとり、情報発信の仕方がブランディングにつながるように意識しました。

Twitterでは「部員のお薦め作品」や、国内映画祭の「現地レポート」なども発信していきました。リアルタイム性も意識し、当時としては新しい取り組みだったと思います。

そうした初期の活動が一巡した2014年に、今後の方向性について考える機会があり、辿りついたのがアンバサダープログラムでした。つまり、それまでは私たちスカパー!からの一方的な情報発信ばかりでしたが、ユーザー目線でのサービスへの評価に価値がある、と改めて気付いたのです。また、競合他社がまだどこもユーザー参加型の取り組みを行っていなかったということもあります。

藤崎:なるほど。まずは2010年からの情報発信があり、その次のステージに向かう際に、ユーザーとのリレーションの必要性を感じたというわけですね。

植田:ブランディングは広告投下量に比例する体力勝負だと考えていました。ただ一方で、アンバサダープログラムは比較的安価に取り組め、かつブランディングにも活かせることを知り、これは「スカパー!映画部」に使えると感じました。

藤崎:アンバサダープログラムの導入にあたっての社内の反応を教えてください。

植田:スタート時に一番言われたことは、「お客様と直接関わる以上、簡単にはやめられない」でした。「簡単にやめるつもりはありません、やらせてください!」と言って、最後はOKをもらいました。

植田:アンバサダープログラムには、「ファンとのリレーション」と「クチコミの活用」の2つの利点がありますが、特に、映画ファンのクチコミを活用できる点に可能性を感じました。

藤崎:確かに、映画におけるクチコミの力は大きいですよね。

植田:はい、映画チャンネル部員がお勧めする映画を載せるコーナーが、一番よく見られるページでした。映画には、確実にクチコミが効くのだなと思いました。個人的にも新作を見る時には、クチコミを参考にしますしね。

藤崎:海外のクチコミ研究の論文では映画が多く取り上げられています。クチコミが大きく影響を及ぼす代表が映画かも知れませんね。

植田:映画は1本2時間という、それなりに長い時間を使うわけですから、評判を参考にしますよね。

藤崎:現在のアンバサダープログラムの内容を教えてください。

映画に関する情報発信を習慣化させる

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植田:アンバサダーの方に情報を発信してもらうために2つのことを実施しています。1つ目は毎月2回、Twitterでの投稿を促す企画です。2つ目は約2カ月に1度、イベントを開催しています。その両方を通じて特に意識しているのは、広告宣伝が届かない層を拾っていくという感覚です。

藤崎:それぞれの内容について教えてください。

植田:まずTwitterでの投稿企画です。これは会員の方へのメールマガジンで「あなたがお勧めする映画は何ですか?」というお題を出して、ご自身のTwitterで回答をツイートしてもらうものです。例えば、5月はカンヌ映画祭の時期なので、「お勧めするカンヌ受賞作」をツイートしてもらいました。他には、例えば番組内にクリント・イーストウッド監督特集がある時は「あなたがお勧めのイーストウッド作品は何ですか?」といった具合です。これは「#スカパー!映画部」というハッシュタグを付けてもらうことで、収集が可能です。

藤崎:広告が届かない方に、さりげない情報伝達を目指しているのでしょうか。

植田:ツイートに関してはその通りです。ただ、それ以上にアンバサダーの方が映画を見た時に、感想をツイートしてくれる行為を習慣化して欲しいというのが狙いです。そして、その時に“スカパー!が介在していたい”ということです。

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藤崎:それは素晴らしいですね。映画ファンは自分の好きな映画を聞かれるのが大好きです。好きなサスペンス映画は?などと聞かれると、つい反応したくなります。

植田:映画が好きな人たちにとっては、自身の好きな映画の再確認になりますし、「お題」に対して「答える」という関係を通じて、私たちとのエンゲージメントが高まればいいなと思っています。毎回、熱心に投稿してくださる方もいて、大変ありがたい話です。

施策の2つ目であるイベントは、その時々で内容が変わります。前回は上映会でしたが、こうした上映会は新作・旧作問わず行っており、上映後は歓談の場を設けて感想をブログ等で掲載してもらっています。

藤崎:以前、イベントの一環としてアンバサダーの皆さんを東京国際映画祭にレポーターとしてお招きしたことがありましたよね。ファンにとっては、貴重な思い出になったのではないでしょうか。

植田:毎回、コアな体験を提供できるように心がけています。

藤崎:他には何かありますか?

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植田:2014年と2015年の12月に2年連続で、視聴者目線での映画紹介として「MY BEST MOVIE」という企画を行いました。これは「スカパー!映画部」のアンケートをもとに決まった10作品を放送していく特集です。アンバサダーの声で作品を選んだので、視聴者が主役の有意義な展開ができたと思っています。もちろん好きな作品の理由なども紹介させて頂きました。

藤崎:それは素晴らしいですね。感想を取り上げてもらったアンバサダーも、映画好きの冥利に尽きるのではないでしょうか。

植田:「MY BEST MOVIE」は社内的にも評価が高かったのではないかと思います。お客さんの声をもとに特集編成を決めるのは、今までにない取り組みでした。こういう企画をずっとやりたいと思っていました。

藤崎:ぜひとも毎年続けてください。

植田:他の事例としては、昨年2015年8月に弊社のオフィスで「スカパー!映画部」の企画会議を行いました。これはアンバサダーの方々にも参加してもらい、スカパー!が世の中に発信していく活動のアイデアを募る会議でした。当日は、4つのグループに分かれ、どんな映画の特集を組んだらいいかの「編成企画」、どんなイベントをやったらいいかの「イベント企画」、他には「広告宣伝企画」と「子供向けの企画」のそれぞれについて、グループ会議を行ってもらいました。

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藤崎:スカパー!さんの会議室というのが、リアリティがありますね。

植田:当日は、私たちでは思いつかないアイデアがたくさん出て、大変勉強になりました。

藤崎:具体的には、どんなアイデアが出たんですか?

植田:最近は「映画の語り部」がいないから、個性豊かな解説者をきちんと立てたらどうかとか。

藤崎:なるほど。確かに昔の映画番組のように解説者がいると楽しいでしょうね。今後そこにアンバサダーの方が参加できると、おもしろいかもしれませんね。

●アンバサダーの声を反映させて番組枠を編成

植田:実はスカパー!では、映画館で上映されなかった映画や、限定公開されたままお蔵入りになった映画も放送しています。そういったマニアックなところに「スカパー!映画ジャンル」の特徴がありますが、一般受けする話ではないので大々的には宣伝していません。

ただ、そういった活動を知っているアンバサダーから、「そこが特徴なのだから、もっとアピールした方がいい」という話がありました。つまり、スカパー!を見る人にはマニアックな人も多いから、その視点をもっと掘り下げていくと特徴が出るのではないかと。こうした指摘は、私たちとしても嬉しいわけです。

藤崎:ファンはちゃんと見ていてくれているのですね。

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植田:実は、昨年もらった意見の反映として、今年の7月から掘り出しものの「名画」に着目した「スカパー!木曜座」という放送枠を毎週木曜日にチャンネル横断企画として始めることになりました。

藤崎:アンバサダーの声が実際の番組編成の参考になったというわけですね。素晴らしいですね。

植田:他社との差別化を考えていた時に、アンバサダーの声をもらい、うちの強みを改めて再確認することができました。

藤崎:確かに放送される映画の本数なども大事ですが、それ以上に映画好きの話を取り入れて、ファンと一緒に編成づくりを深めていくという姿勢そのものが、映画ファンの気持ちに刺さるのではないでしょうか。「スカパー!=映画」という公式は、すでに根付いている気がします。

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今回のポイント

情報発信のNext Stageへ
さらに厚いクチコミを目指して
Twitterの情報発信はファンの習慣化が狙い
ファンとの交流の場をつくる
2年連続でアンバサダーが選ぶ映画を特集
アンバサダーの声を反映させて番組枠を編成


今回のまとめ


スカパー!は2010年に「映画部」という旗印を掲げて情報発信を始めます。これは番組の提供会社らしく当初は番組としてでしたが、2014年にユーザーとのコミュニケーションに舵を切ります。この流れがまさに、今のマーケティングのあり方を象徴している気がします。つまり「スカパー!=映画」の公式を強めるためには、自社からの情報発信ではなく、ユーザーを巻き込んで一緒に情報を作っていくことが大切だというわけです。定期的なイベントやTwitterでの投稿企画は映画ファンにとっては楽しみです。そのうえアンケートをもとにした番組づくりや、企画会議をきっかけにしての番組枠の誕生など、一緒に情報を作るだけでなく、番組制作にまでファンの声が反映されていくとなると、映画ファンにとってスカパー!の存在はもはや単なる番組以上のものではないでしょうか。
明日は後編をお届けします。

※このコラムは2016年6月28日の、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。



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