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SNSの反響を広告費に換算! 森永製菓はアーンドメディアでファン化図る 〜ファンと繋がる運用方法

こちらの記事は、2023年2月1日(水)に実施したセミナーの内容をレポート化したものです。

創業から123年となる森永製菓では、10年ほどかけ複数の公式SNSアカウント合計で延べ300万フォロワーへと成長させてきました。その間企業の情報発信のみの役割から、よりマーケティングへの貢献度を高めるためにSNS担当が広告部に移管され、現在に至ります。
SNS運用の全般を担当し、アーンドメディアにおいて森永製菓のファン化を目指す、二宗瑞季さんにお話しを伺いました。
スピーカー:
二宗 瑞季さん(森永製菓株式会社 マーケティング本部 広告部)
望田 祐作(アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 アンバサダーマーケティング事業 部長)
徳力 基彦(アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 アンバサダー/ブロガー)

SNSで発信、反響を広告費として換算!

徳力:本日は、よろしくお願いします。いろいろな会社の方とご一緒させていただきますが、ソーシャルマーケティングを広告部に付属するのは、珍しいですね。

二宗さん:もともとは会社の情報発信ということで、コーポレートコミュニケーション部でSNSを担当していました。ですが、SNSをもっとマーケティング機能として利用していきたいという思いがあり、担当者がマーケティング部門へ移管されたという経緯があります。

徳力:そうなんですね。まるでSNSの歴史そのものを体現しているような変遷ですね。では、二宗さんから社内での活用法などについて詳しくお話し伺います。

二宗さん:「SNSの反響を広告費に換算 森永製菓はアーンドメディアでファン化を図る ファンと繋がる運用方法」と題してお話しして参ります。最初に自己紹介させていただきます。私は、化粧品業界でデジタルマーケティング、ダイレクトマーケティングを経験したのち、2021年に森永製菓に入社しました。現在は、SNSなどデジタルメディア運用、子ども向けサイトの企画に従事しながら、マーケターや営業ともできる限り協力し、企業SNSの活性化に取り組んでいます。

森永製菓は創業123年、皆様もご存じの商品・お菓子が多数あるのではないでしょうか。またお菓子以外にもinゼリーシリーズやアイス、ホットケーキミックスやココアなどがあり、本当に幅広い年齢層のお客さまに商品をご利用いただいています。そのため、SNSアカウントもブランドや目的ごとに複数あり、日常延べ300万人のファンとダイレクトコミュニケーションを取っています。それぞれのブランドのファンの方とコミュニケーションを取ることで、商品をより身近に感じていただけることを目指しています。

SNSでは、公式アカウントの投稿にリプライする形で購入報告をしてくださる方、オーガニック投稿での購入のつぶやきが日々多く発生しており、売上にも繋がっていると担当者たちは強く肌感で感じています。当社品はお菓子やアイスなど、「Twitterを見て気になったらすぐ買いにいく」ことのできる商品でもあり、SNSとの親和性はもともと、非常に高いと考えています。

フォロワーの価値を説明するためのNPS調査

二宗さん:企業内では、肌感だけにとどまらず、SNSが売上に貢献していると示すデータが必要です。そこで、弊社では主にNPS調査を使ってSNSの価値を部門外へ説明しています。

弊社には、SNSアカウントのほか、ブランドのファン向けの会員サイトがあり、この会員サイトに登録されている方、および弊社のSNSアカウントをフォローしている方を対象に定期的に調査を実施し、「森永製菓の商品を人に薦めたいか(NPS)」を0〜10の単位でお聞きしています。NPSの日本の平均は「マイナス32」と言われていますが、弊社のSNSフォロワーは「67.7」、さらに会員かつSNSフォロワーは「74.9」と、大変高い数字が出ています。

また、購入頻度や購入金額についてもお聞きし、サイト会員やSNSフォロワーは、一般の人よりも高いことが分かっています。こういった数値からも、SNS活動は実際のマーケティング効果も生んでいると説明ができています。

このようにSNSの運用価値は、一応示せているものの、一方で悩みもあります。それは、担当部署以外ではSNSの効果はまだまだ理解されづらいということです。その結果、リソースの確保も難しくなります。リソース不足については多くの会社のSNS担当者が抱える共通の問題とも伺います。リソース確保が難しいのは、SNS費用対効果が見えづらいということが主な要因です。そこで弊社ではSNSの運用に対して、広告費換算を実践し、価値を積極的に数値で示せるように取り組んでいます。

トリプルメディアにおけるSNSの立ち位置

二宗さん:ご存じの方も多いかもしれませんが、ここでまず、弊社におけるソーシャルメディアの立ち位置をまとめておきたいと思います。基本的に、「トリプルメディア」の考え方を採用しています。

トリプルメディアにおける「ペイドメディア」は広告、リスティング広告やCMなどサービスの認知を上げる時に有利であり「オウンドメディア」では、商品の理解を深めていただき販促に繋がるのに有利なメディアです。またすべて数値が自分たちで持てるので、効果測定がしやすいというメリットがあります。弊社では、公式SNSアカウントも運営を自前で行う発信のため、オウンドメディアのひとつと位置づけています。

一方で、「アーンドメディア」は、SNSの声や商品レビューなどお客さまが自由に発信するメディアであり、そのものをコントロールすることはできません。なかには誤った情報も含まれますが、企業からの依頼なくユーザーが自発的に行うリアルな内容の発信であるため、商品の感想においては信頼性が高く、多の顧客の購買行動のきっかけづくりとして重要な役割を持ちます。「アーンドメディア」では、ユーザーのコミュニケーションを通じて商品やサービスの理解の向上、さらにはファン化ができると言えます。

いま触れたファン化の定義に関してですが弊社ではまず、公式アカウントをフォローしていただいた方は、「ファン」だと考えています。弊社の発信に反応していただける、共感していただけることは、ファン化の第一歩です。さらにファン化を促進すると、弊社のアクションに対して反応——いいね!や引用リツイートをしてくれるエンゲージメント行動——したり、UGCで自発的に好意的な発信をしてくださるような方のように、高度なファンへと発展していきます。ファン化とは、このように弊社のアンバサダーになっていただけることだと考えています。

ファン化のメリットは、商品へ対する信頼度が上がったり、また継続的な購買、購買金額の上昇などが期待できることです。また、UGCの獲得によって、競合他社と比較した際の優位性ともなっていきます。アーンドメディアは、コントロールは難しいものの、うまく利用できることで、低コストで高い広告効果があると言えます。

トリプルメディアにおける「オウンドメディア」で行う発信を、公式SNSアカウントを通じてうまくファンに届けることで、「アーンドメディア」でUGC創出を高めるなど自社にかかわるSNS全体を盛り上げていけると考えています。

費用対効果を見える化する、広告費換算による数値化


SNS運用において、アーンドメディアを上手く活用し高い広告効果を上げていることを担当者が実感していても、社内で示せるような効果検証が難しいということは、一般的によく言われます。例えばフォロワー数が増えても販促に効果があったと理解されづらいといったことです。そこで、弊社ではSNSでの評価を以下のように広告費として換算することにしています。

具体的には、過去に出稿した広告価格を元に、獲得単価やインプレッション、RTなどの単価を算出、そこにいただいた反応数を掛け合わせることで、もし広告だったらいくらくらいかかった、ということを参考値として示します。

毎回のレポートでは、各種のエンゲージメントに対応した価格を表示し、広告換算した場合の単価を記載しています。すると、「今回フォロワー数が○人増えたことで、広告費換算ではこのくらいの出稿費と同じ効果がありましたね」と社内でも理解してもらいやすくなります。

日々のアカウント運用とキャンペーンでの活用


二宗さん:次に運用の内容についてご紹介します。弊社ではコミュニケーション型のSNSとして主にTwitterとInstagramを運用しており、ここではお客様からの発信も発生させるという目的をもって運用や企画を行っています。

まずTwitterでは、拡散力の強さを活かし、お知らせや新商品紹介を中心に行っていますが、コミュニケーション方法としては、とくに挨拶のような、日々の投稿を大切にしています。いまの時代は、ユーザーがインターネットを使い、好きな企業のアカウントと好きなだけ自由に繋がれます。そういう意味では、1社でユーザーを囲い込むという考え方はできないので、より多くのユーザーと繋がり、その1つずつの繋がりをいかに深めるかが大切だと考えます。そしてファンに忘れられないように、繋がりを深める投稿として、挨拶などの日常のコミュニケーションを大切にしています。

次にInstagramでは、Twitterに比べて動画の利用が得意という面を活かして商品やレシピ紹介を多めに投稿することにしています。Instagramは文章も長めに掲載できますので商品理解を深めるような内容にすることを意識しています。

とはいえ、どちらのアカウントも投稿するだけでは効果を評価できません。そこでデータ分析の機能を使って評価を行うのですが、この際、Excelを使った表計算や目視では手間がかってしまうため、弊社では数値を抽出できるツールを使ってレポートを作成しています。SNS担当者のリソースが足りないと、コンテンツ発信が優先となり、どうしても評価分析が薄くなりがちです。ですが、効果のある内容を効率的に制作していくためにも、分析はしっかりと行なっています。

余談ですが、SNSのフォローキャンペーンを行うと、キャンペーン目当てのフォロワーばかりになるのではないかという声もよく聞かれます。もちろん最初の頃の目当てかもしれません。しかし、コミュニケーションや有益情報の提供を通じて、のちのちそういったフォロワーをファン化していけるのであれば、もっとも効率のよいファン獲得方法ではないかとも言えます。もちろん、SNSキャンペーンについてもツールを使って分析を行って効果分析を行っています。効果測定を毎回行うことで、あるときのキャンペーンでは、これまでに居なかった新たなユーザー層のフォロワーが獲得できたとわかったこともあります。新たな層に対し、今後アプローチが可能になったということは、キャンペーンの成果や、社内の説得材料としても使えるものだと思いました。

一方、Instagramのキャンペーンは投稿を促進する内容で実施しています。例えば「記憶力アート」企画は、純粋想起を高めることを意識した、チョコボールの公式キャラクター「キョロちゃん」を描いて投稿してね、というキャンペーンでした。ユーザーの方々が「どんなキャラクターだったかな?」と考え直すことで、記憶の中に強くとどめていただき、純粋想起率を上げるということを目的にしています。

なぜ純粋想起が大切かというと、お菓子は、計画購買はほとんどなく、売場での直感や衝動買いがほとんど、と言われています。すると、チョコが食べたいな、お菓子が食べたいなと思ったときに自社ブランドを純粋想起してもらえるかといったことが勝負になります。そのためにも強い繋がりを目指しているのです。

このキャンペーンでは、サイトの中にフォロワーの投稿を表示するために、ツールを使って効率化しました。WebサイトにUGCを掲載するとユーザーが確認してくれるのでアクセスも増えますし、サイトを訪問したタイミングに、ほかの情報も見てもらえるという導線づくりも可能になりました。

ソーシャルリスニングから共起語を活用「森永ラムネ」の事例

二宗さん:最初にお話ししたように、ペイドメディア(広告)は基本的に企業から消費者へ一方通行になるため、特定の調査を行わない限りは、その効果——ユーザーに刺さったのか——を測ることが難しいと言えます。
またマス広告の効果検証の調査は高額で、なかなか頻繁には行えないのも実情です。そこで弊社では日頃から広告施策、マーケティング施策の効果検証をSNSのクチコミ検証によっても行っています。

下図は、inゼリーの施策を分析した例ですが、話題の量や反応してくれた人の属性、話題のされ方・興味関心などを分析し、その後の施策に役立てるようにしています。

また、クチコミ分析は、得意先への提案にも活用可能です。森永ラムネの例を紹介します。ソーシャルリスニングをすると、森永ラムネは試験やテスト、勉強など集中したい場面で利用していただいていることが多いということが見えてきました。「“ぶどう糖90%”の森永ラムネは試験の日の必需品」などといって薦めていただいたりしています。

そこで、試験の時期に、森永ラムネを使った施策ができないか、という仮説を立てました。プロモーションを行うにはいつ頃が最適でしょうか。これを決めるのには、一年を通じて「テスト」「試験」「模試」といったキーワードがよくつぶやかれている時期をSNSのデータから調べました。やはり一番盛り上がるのは、共通テストがある1月の初め頃と分かり、その頃に合わせてプロモーションを実施することにしました。

コンテンツの検討にもSNSの中で「試験」と一緒につぶやかれている、対象キーワードの「共起語」を利用しています。そこでは、やはり「センター試験」や「合格」などとの相関性が強かったため、最終的に受験と関連付けた企画に決めました。

このように、日常のファンのつぶやきをリスニングすることで、企画の仮説を立て、実際に企画の内容はどのようにつぶやかれているのか、どの季節に盛り上がっているのかなどのデータを使って調査した上でベストなタイミングを検討、そしてそれらの調査内容をもとに「こんなプロモーションはいかがですか」と施策を提案するという流れが可能になります。

社内から生まれる企画は、「企業目線」に偏ることもあります。SNSから収集したデータやリアルな消費者の声をもとにすることで、「顧客目線」に立った、より説得力のある提案になるのではないかと考えています。

このようにSNSから得られるデータはマーケティングのみならず、営業活動にも生かせると考えています。

今後はフォロワー以外へのコミュニケーションを強化


今後の弊社のSNSの展望としては、ユーザーとのコミュニケーションを強化を第一に考えています。現在は、お客さまを囲い込むのではなく、お客さまと繋がりあう、そしてコミュニケーションを高めることでお客さまが弊社の商品を想起していただけるように活動をします。その一環として、これまではフォロワーのみだった交流の範囲を、フォロワー以外の方にも広げ積極的に声をかけに行く、「アクティブコミュニケーション」をスタートしました。SNSを通じて多くの方とファンと繋がり、またその数値で効果測定を行いながらアカウントの成長に繋げる。そのような活動を続けていきたいと思います。

徳力:ありがとうございます。とても完璧に運用でされていますが、この2年間で苦労されたことはありますか。

二宗さん:そうですね、Twitterに関しては、森永製菓の中で10年かけて運用を担ってきたパイオニアの方がおりまして社内理解も深まってデータの利用も進んできているのですが、Instagramについてはまだ発展途上で、頼られるアカウントへの育成や社内理解の促進に苦労しています。

それから、まだまだ社内にSNSの役割や重要性を伝えきれていない部分もあり、理解度や活用度には個人差があります。SNSをマーケティングにもっと使ってもらえるように、しつこく社内に対してもSNSを広めていく、「SNSでこんな声が上がっていましたよ」「こんな事例がありましたよ」と 社内で頻繁に発信し続けることも必要だと感じています。

徳力:社内に対しての発信も大切ですね。やはりそのお話しから、ご苦労が垣間見えました。
ところで広告費への換算はTwitterではPVやRTフォロワー 獲得など個別に換算されていましたが、Instagramはどうしていますか。

二宗さん:Instagramは、フォロワーの獲得単価で換算しています。いまは広告費と比較して計算しますが、広告がなくても、一般的な獲得単価を調査したものに基づいて計算してみるとよいのではないかと思います。

望田:森永製菓さんほどしっかりと体系化できていませんが、アジャイルメディアでも、広告費の換算や、SNSの投稿分析など、SNSの価値を指標化していくサービスを提供しています。二宗さんのお話しにもあったように、こういった数値を上げて、部門外や上司に対する説得材料にしていただいている例もあります。

徳力:アーンドメディアがどれだけ売上に効いたのか、というのを計測するのは本当に難しいですよね。森永製菓さんでは、経営層などはどのような理解ですか。

二宗さん:やはり会員サイトとフォロワーのNPS調査は、社内で価値を理解してもらうデータのひとつだと思います。また、広告費換算も重要です。誰が観たのかといったリーチや、共感を示す「イイネ」なども重要な指標ということを、換算値とともに説明することで理解の促進をはかっています。

徳力:では最後に、今後のアーンドメディアの活用やファン化について、これからもっと力を入れなければと考えている企業担当者の方に向け、お二人からひとことアドバイスをお願いします。

望田:素晴らしい運用紹介ありがとうございました。二宗さんに刺激を受けたみなさんが、すぐに取りかかれるとしたら、ソーシャルリスニングの強化です。まずはSNSの中で、自社やブランドがどのように語られているのか実際に見てみる、理解してみようしてみるというのがよいのではないかなと思います。

二宗さん:私も同じで、お客さまの声を探すのが第一歩だと思いました。商品名でも会社名でもいいのですが、エゴサーチみたいなことを一度してみると、どんなことを発信したら喜んでいただけるのかというコンテンツづくりのヒントにもなると思います。そこから企画が生まれることもありますので、ぜひ、お薦めします。

徳力:ファンの声に耳を傾けてみるというのが重要ですね。本日はありがとうございました。


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