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【ソーシャルメディア活用(1)日本コカ・コーラ】「まずやってみて、そこから学んでいく」

※このコラムは、2012年1月16日掲載宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


日本コカ・コーラは、「第二回ソーシャルメディア活用企業調査」(アジャイルメディア・ネットワーク=AMN調べ)でランキング1位となりました。ソーシャルメディア活用を始めた経緯から運用、効果測定の考え方に至るまで、同社の竹嶋朋子さんに聞きました。

一度始めたものは、中長期で運用する


――ソーシャルメディアを始めた経緯を教えてください。

竹嶋 社として最初に本格的に実施した取り組みは、2007年5月に、モバゲーで「コークスキー」というアバターを作ったことです。それを配布していく中で消費者とブランドを絡めたコミュニケーションを行ったことが始まりでした。

コカ・コーラのマーケティングの考えとしては、製品ブランドの価値を定義して、それをどのようなメッセージで消費者に伝えるか、ということを中心に考えています。必ずしもソーシャルメディアありきで展開するのではなく、消費者を中心において、消費者の動向を見て、最もメッセージが伝わりやすいコンタクトポイントや接触方法を考えた上で、コミュニケーションを設計し、実行に移しています。

「ジョージア エスプレッソ ブラックス」という製品の事例をご紹介しますと、ボトル缶コーヒーで「ちょっとずつ飲んでもらう」ということが製品ブランドのコミュニケーションコンセプトでした。それに対してツイッターの「ちょっとずつ呟く」という特性と、メッセージの整合性がとれたので、GEORGIA_JAPANというアカウントでツイッターを始めました。

他のソーシャルメディアにおいても、それぞれいろいろなきっかけで始めましたが、根底には「一度作ったものは決して捨ててはいけない」という考えがあります。アカウントをキャンペーンの期間に合わせて、短期的に運営して終了ということはせず、コミュニケーションを永続的にとることを前提として活用しています。

私のミッションとして、各ブランド軸でのデジタル施策とは別に、ソーシャルメディアという横軸で横断的にも見ている立場にもありますので、組織として中長期的にソーシャルメディアを有効に活用していけるような下地や体制を整備しながら、その時に展開しているキャンペーンなどでも滞りなく使ってもらえるか、ということを考えて、各個別施策を見ています。

――その一つの形が「コカ・コーラ パーク」のソーシャル化ということですね。

竹嶋 その通りです。コカ・コーラ パークは巨大なCRMプラットフォームの側面も持った、弊社のコミュニケーションのプラットフォームで、会員が1000万人います。我々としては、一度関わってくださったお客様と永続的にコミュニケーションをとること目指している中で、コカ・コーラ、ジョージア、アクエリアス、爽健美茶といった複数の商品ブランドを束ねたコカ・コーラ社としてのインタラクティブデジタルプラットフォームを作りました。

そして今年の春からは、コカ・コーラ パーク内でツイッター、フェイスブック、ミクシィ、アメーバといった有力なソーシャルメディアの投稿・閲覧を行えるようにするなど、非常に大きなユーザーを抱えるソーシャルメディアとの連携を始めました。

我々の本業はあくまで清涼飲料の製造・販売なので、基本的には一人でも多くのお客様に一本でも多くわれわれの製品を飲んでいただくことが最終的な目的です。コカ・コーラ パークでは、複数の弊社のブランドに同時に触れていただくことができるので、そのブランド体験を通して、最終的に「コカ・コーラ」社全体のブランドを好きになっていたいただくことを目的にしています。

しかし、会員が1000万人いるとは言え、日本人が1億2000万人いるということを考えると、コカ・コーラ パークだけをやっていればいいということではありません。コカ・コーラ パークでカバーしきれない部分を、ソーシャルメディアの持つ「ユーザーとの繋がり」といった特性を活かして、相互作用させる必要があると考えています。

Webを取り巻く将来展望を説得して回った

――コカ・コーラ パークという自社メディアを運営することのメリットは。

竹嶋 主に2つのことが考えられます。1つはシステム面での統合です。以前は各ブランドのブランドサイトを立ち上げるときに、いろいろなところにサーバーがあったので、それらを統合するために立ち上げました。また、システムを統合することで、データベースも一元管理することができます。

2つ目は効率性です。 例えば、「ジョージア」ブランドを目的に来たお客様が、「アクエリアス」や「ファンタ」といった弊社の他ブランドにも、ストレスなくワンストップで接触できるように工夫をしています。

  

――自社で会員組織を作り、それを運営する上で苦労されたことはありますか。

竹嶋 一番大変だったのは社内の説得です。当時、新しく発足したばかりのチームだったのですが、始めた当初は社内の合意形成が非常に難しく、周囲からは「インターネットってホームページでしょ」というように見られていたので、ホームページ以上の可能性についてはあまり理解されませんでした。それらについては、今後、消費者がどのようにメディアに接触していくかという展望を説明して回って理解を得ました。コンセプトを立ち上げたばかりの当初は、今のようにオウンドメディア(自社メディア)が成熟してはおらず、未知の領域だったので、社内の説得が難しかったです。

――未知の領域において、具体的にはどのように説得をされたのですか。

竹嶋 弊社のマーケティングの考え方の一つとして、「Test & Learn」というものがあります。これは未知の領域において、とりあえずやってみて、そこから学んでいくことを目的としています。我々の部署にはもともと新規領域の開拓がミッションの一つとしてあったので、「とりあえずやってみよう」という考えで、実績を作って積み重ねていきました。

今の「インターラクティブ・マーケティング」の前身の部署ができたのが2005年の秋なのですが、それ以前は、いわゆる媒体の出稿計画を立てる部署があり、インタラクティブはその一部という位置づけとなっていました。当時の出稿計画のベースにあったのが 「リーチ&フリークエンシー」という考えのもとで、そこでテレビ広告など、いわゆる4マス媒体を活用したメディアプランニングを中心に行っていました。その部署の中の数人がインターネットを担当していましたが、人的なリソースも限られていたため、いわゆるブランドサイトの運営などを現場の者のサポートをするので精一杯の状況だったようです。

――インターネットの担当者の方はどのくらいの人数でしたか。

竹嶋 当時は2人だと聞いています。

――2人ですか!今はどれくらいの人数体制でしょうか。

竹嶋 外部のパートナーの方も含めて考えると、かなりの規模の人たちがコカ・コーラ パークおよび、コカ・コーラのインタラクティブ施策に専属で従事していただいています。弊社の場合、社員自体が500人程度とそれほど大人数ではありませんが、外部のパートナーのご協力をいただき、日々運営しています。

自動販売機は重要なコンタクトポイント

――コカ・コーラ パークの会員が1000万人ともなると、自社メディアとして運営するのはやはり大変だと思いますが、何か工夫などされていることはありますか。

竹嶋 戦略的なプランニングとそのマネジメントを大切にしています。やはり重要なのは、自分たちの考えから、戦略、戦術まできちんと理解をした上で、その都度、データ管理をしつつ、実行、コントロールして改善につなげることですね。

具体的には、消費者を中心に考えて、彼らの周りにある様々なコンタクトポイントや、そこで消費者がどのようなことを考えるのか、などのインサイトをもとに考えています。少し前までは、“テレビありき”だったものを、まずは「このブランドの価値をどのようなメッセージで伝えたいか」というアイデアベースで、最適な媒体を利用するようにしています。

効果測定においても、きちんと自分たちが意図するターゲットにリーチして、そしてその効果が分かるようにマーケティングを行っています。

――効果測定はどのように行われていますか。

竹嶋 効果測定というとKPI(重要業績評価指数)とKBI(効果測定指標)があると思いますが、弊社ではマーケティングゴールを達成したかどうかを、独自のリサーチで行っています。当初の目的を明確化し、行ったキャンペーンの接触者、非接触者への作用を細分化して、測定しています。また、以前のものと比べて時系列的にも分析します。

とは言っても、例えば、ツイッターの投稿が何件リツイートされたかということが、目標達成に繋がったかということの相関性を出すのは難しいところで、試行錯誤しながら進めています。

――最後に今後の展望についてお聞かせください。

竹嶋 引き続きお客様とのコミュニケーションの質を向上していくこととを第一に考えたいですね。ソーシャルメディアの活用のほかにも、スマートフォン対応、ゲーミフィケーション対応など取り組むべきことはたくさんありますが、ひとつ一つ小さなことから挑戦して、そこでのラーニングを次の新しい施策で活かしていきたいですね。

また、弊社ならではのコンタクトポイントの資産の一つとして、自動販売機があります。全国に98万台ありますが、自動販売機はただ単に飲料が出てくる箱ではなく、お客様と直接コミュニケーションをすることができるひとつのコンタクトポイントとして捉えることができます。街中にあるということは、モバイル端末の相性が非常に良いので、自動販売機とモバイルマーケティングのデジタル技術をうまく融合させたマーケティングというのは、引き続き強化していけると考えていきたいと思います。

――インタビュー雑感

コカ・コーラ パークの事例は、ブランドと消費者との絆を深めるプラットフォームとして、今後のソーシャルメディアの活用方法の鍵となるはずです。自社メディアを持たない企業にとっても同様に、フェイスブックページを基盤にその他のさまざまなソシャールメディアを駆使して、統合的に取り組む事が出来ると思います。その際には、消費者とのコミュニケーションプランを戦略的に考えながらも、「とりあえずやって、そこから学ぶ」という姿勢が大切であると今回の取材を通して強く感じました。(アジャイルメディア・ネットワーク)

インタビュー担当:AMNインターン 青山学院大学経営学部 芳賀ゼミ 糸井佑樹、人見彩菜

※このコラムは、2012年1月16日掲載宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


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