見出し画像

「顧客満足度」を上げる具体策がアンバサダー戦略(ポータルサイトgoo)

※このコラムは2016年7月12日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

NTTレゾナントは、2014年10月に「gooアンバサダープログラム」を開始。CS担当の立場から、ファンとのコミュニケーション施策を立ち上げた背景を聞きました。

今回のゲスト

画像1

千田忠慶(せんだ ただよし)
NTTレゾナント メディア事業部 ソーシャルサービス部門 CS担当・ブログ担当課長
gooが誕生した1997年NTT入社。金融関係のビジネス企画、goo広告企画営業、goo動画プロデューサー、教えて!goo広告商品企画、gooスマホ部企画に従事。2012年より、お客様の満足度向上を目的とするCS担当の責任者としてgoo事務局を運営。社員のソーシャルメディア利用促進の一環として、2012年 よりTwitter上で「ありがとう」のお礼とアクティブサポートを行うgooサンクスチーム(@goo_thanks)を開始し、2014年より「gooアンバサダープログラム」を始動。

目標は「顧客の満足度」をあげること

画像2

藤崎:アンバサダープログラムを始めたきっかけから教えてください。

千田:話は5年前に遡ります。私はCS担当として、goo全体の「顧客満足度」を上げることを目標に、主にメールを中心としたサポートセンターの対応やFAQの充実などに取り組んできました。そのような中で、もう少し積極的に顧客満足度を上げる取り組みができないか考えるようになりました。

CS(customer satisfaction):顧客満足。米国で1980年代から指摘された概念でCSを高めることが企業の業績を向上させると言われている
そこで、まずお客様の声を聴いてみるために、いわゆる「傾聴」を始めました。gooの評判形成がどのようにTwitter上で行われているかを把握しつつ、ファンを探して、その人たちとエンゲージメントを築けないかと考えたのです。

藤崎:傾聴とは、ソーシャルメディア戦略のバイブルと言われる書籍『グランズウェル』にでてくる「5ステップ」の第1ステップですね。

『グランズウェル』(シャーリーン・リー&ジョシュ・バーノフ著):ソーシャルメディア戦略の基本が書かれた名著。特に「5ステップ」と呼ばれる戦略は、世界中のマーケターが参考にしている。

千田:そうです。5ステップを順に実行していきました。まずは「gooサンクスチーム」というTwitterアカウントを作って、「傾聴」をしばらく行いながら、徐々に第2ステップであるユーザーとの「会話」フェーズに移行しました。その結果、ユーザーと仲良くなるケースがだんだん増えていきました。話しかけることを続けながら、gooについて理解してもらおうという取り組みを1年ほど行ないました。その結果、多くの場合、エンゲージメントを強めることができ、次のステージへのステップアップとして、アンバサダープログラムに着目しました。

画像3

藤崎:なるほど。もともと「傾聴」や「会話」を行っていた流れがあったわけですね。それは素晴らしい。なぜ、アンバサダープログラムだったのですか。

千田:理由は5つあります。1つ目はTwitterやFacebookなどの特定のプラットフォームに依存するのではなく、gooファンとの直接の結びつきを重視したいということ。

2つ目は、『グランズウェル』の「5ステップ」でいう「活性化」「支援」「統合」を、今後実行していくためには、単なるユーザーではなく、もっと濃い関係が必要だと考えたこと。

3つ目はリアルにおけるコミュニケーションを意識したこと。私達はオンラインの会社なのですが、同時にオフラインも大切にしたいと思いました。

4つ目は「NPS®調査」の結果を踏まえたもの。どうしたらNPS®スコアを上げられるかという観点からアンバサダープログラムに着目しました。

5つ目は差異化です。色々なポータルサービスがある中で、リアルなコミュニケーションや、ファン化を推進している取り組みは他社では行っていないので、私たちにしかできないプログラムができるのでは、と考えました。

藤崎:『グランズウェル』の「5ステップ」の実践を目指す流れで、アンバサダーに辿りついたということですね。同時に興味深いのが、NPS®スコアを上げるためにアンバサダープログラムに着目したという点です。詳しく教えてください。

顧客満足度を上げるエンジンがアンバサダー

千田:もともと『グランズウェル』を読んだのは、「NPS®調査」がきっかけです。

藤崎:千田さんの根本には「顧客満足をいかに上げるか」が常にあるんですね。

千田:私はCS担当として今まで「顧客満足度」を調査してきましたが、それはほとんど「弊社の応対に対する満足度」なので、別の観点を加えたいと思っていました。そんな時に企業の経営指標として知られる「NPS®」に出会いました。NPS®スコアを上げることが、企業の推奨度を上げ、クチコミも増やすと知り、5年前にNPS®調査も開始しました。

NPS®(Net Promoter Score®):「顧客推奨度」や「正味推奨者比率」と訳される。米国では顧客志向を重視する企業の経営指標として広く採用されている。(NPS® はBain&Company、Fred Reichheld、SatmetrixSystems の登録商標)
当時、1年ほど、いろいろなことを行いながらNNPS®調査を取り、どうしたらスコアを上げることができるのか考察を続けていました。「ネガティブな人を中立に持っていく」「ポジティブを増やす」「プロモーターを増やす」など、方策はいくつかあります。試行錯誤する中で、推奨してくれる“プロモーター”を増やすことが必要という結論に達しました。つまり、いかにプロモーターを増やすか、あるいはいかにプロモーターを育てるかが、NPS®スコアを上げるカギだということです。

藤崎:そのプロモーターがアンバサダーというわけですね。

千田:その通りです。

画像4

藤崎:顧客満足を上げる取り組みが、アンバサダープログラムというカタチに発展したというのは興味深いですね。

“CS”をカスタマー・サービスやカスタマー・サポートとして捉えると、ユーザーの不満や疑問に答える仕事が一般的かもしれませんが、「カスタマー・サティスファクション=顧客満足」になると、だいぶ違いますよね。つまり、どうしたら顧客満足を上げることができるのかと考えると、能動的に働きかける方向にいきますよね。その具体化が、今回の顧客との積極的なリレーションにつながっていくわけですね。

千田:確かに、その一面がありますね。私個人の志向としても、「サポート寄り」というよりは「アクティブ寄り」ということが大きいと思います。顧客の満足を高めることで、ファンになってもらいたいですし、応援してもらえれば、それは本当に強い絆になると考えています。現状、考えられるマーケティング上の取り組みで、顧客満足を上げるために企業ができる具体的な施策のひとつがアンバサダープログラムだと思います。

藤崎:なるほど。今、できることのひとつというのは納得です。

千田:アンバサダープログラムを始めた他の理由としては、それまでソーシャルメディアマーケティングを行う中で、その人たちと直接会ってみたいという気持ちが高まってきたこともあります。私たちが本来知ってもらいたいサービスに関するストーリーや思いなども、リアルな場の方がよりわかってもらえるはずですし、ユーザーに「プロモーター」になってもらうためには、直接お会いすることが必要だと考えました。

藤崎:面白いですね。リアルを重視したいということですね。

千田:オンラインの会社だからこそ、リアルな接点を持ちたい。オンラインだけでなく、実際のユーザーとコミュニケーションしていくことも重要だということです。ブランド調査の結果で、gooの特徴として「親しみ、温かみ」というキーワードが出ています。ファンの方は少なくともそういう所に思い入れが強くあるので、それに応えていける場を作りたいという気持ちがありました。

ミッションの具現化がアンバサダープログラム

千田:実はアンバサダープログラムの実施には、通常の新規企画に比べて約2倍の時間をかけて準備しました。社内の意思統一と活性化のためです。

藤崎:他社でもアンバサダープログラムに取り組むことで、部署を超えた交流が生まれたり、モチベーションアップにつながったり、社内の活性化につながったという話を聞きます。

千田:弊社では社員全員が“お客様視点”を持ち、“お客様起点”のサービスを提供し、お客様の一人ひとりへの最適なおもてなしを目指しています。そのひとつの具現化としてアンバサダープログラムがあるというわけです。

藤崎:なるほど。アンバサダープログラムを、ミッションに直接結びつく取り組みとして捉えているわけですね。それは素晴らしい。

千田:お客様視点・お客様起点を大切にすることは顧客満足を高めることですし、お客様を大切にすることはアンバサダープログラムを重視することである、という関係です。すべてはつながっているということですね。

藤崎:そういえば、2回目のアンバサダーイベントでは、社長も参加されていましたよね。

千田:社長にもアンバサダーと会ってもらいたかったので、来てもらいました。アンバサダーの熱量を直接感じることができて、「とても感動した」と言っていました。

藤崎:社長がアンバサダーと直接会うということは、ユーザーを大事にする企業姿勢が伝わると思います。

画像5

画像6

アンバサダー用のオリジナルアイテムも制作

藤崎:アンバサダープログラムの基本的な流れを教えてください。

画像7

千田:まずSNS上でファンになってくれそうな方がいたら、会話をして、少しでもgooを理解してもらえるように努めます。gooアンバサダーになった方には、オープンにしていないような情報をメルマガやイベントで伝えています。これはアンバサダーだから知ることができたというインセンティブを意識しています。

アンバサダーの方々の情報発信にも期待しているので、どうしたらみなさんが情報発信しやすいかも工夫しています。例えば、日頃使ってもらえるような、身近なグッズを作ってプレゼントしています。これは私たちが提供しているサービスが、ポータルサイトという無形のものなので、どうしたら可視化できるのかというところから生まれました。誰かとの会話で「goo」を話題にしてもらうためのグッズという言い方もできるかもしれません。アンバサダーのみなさんの名前の入った「gooアンバアダー名刺」も作りました。

藤崎:gooのロゴ入りのグッズやケースなどのアイテムもカッコいいですし、もらったアンバサダーも嬉しいですよね。また、「自分がどのポータルサイトを使っているか」などと、普通は周りの人に言うことはないので、「自分はgooアンバサダーです」と伝えるきっかけとして、名刺というアイディアはすごく面白いと思います。

藤崎:アンバサダーイベントについて教えてください。

千田:gooの取り組みを、できるだけ深く知ってもらうように努めています。各サービスプロデューサーが今まで外に出していない情報を直接話すことも積極的に行っています。イベントでは、gooに関するクイズも取り入れていますが、それは記憶に残してもらいやすくするためです。

テーマに関しては、gooのブランドイメージと近い内容の方がアンバサダーの方からの受けがいいようですね。例えば、環境保護や社会貢献に関する情報を発信する「緑のgoo」が挙げられます。他には、「防災アプリケーション賞」を受賞した「goo防災アプリ」なども好評でした。

画像8

藤崎:お客様との繋がりを強化するためにいろいろ行っているということですね。グッズを作ったり、イベント企画やテーマ設定を工夫したり、とても共感が持てます。

今回のポイント

目標は顧客の満足度をあげること
顧客満足度を上げるエンジンとしてのアンバサダー
アンバサダープログラムは企業のミッションの具現化の一つ
アンバサダー用のオリジナルアイテムも制作


今回のまとめ


CS担当として、いかに顧客満足度を高めるか。千田さんの意識と目標は明確でした。確かに多くの場合、従来の「顧客満足度」調査は「企業対応に対する満足度」という側面が大きかったと思います。では、どんなアクションを行えば顧客満足度を上げることができるのか。どうすれば「NPS®スコア」を上げることができるのか。それが『グランズウェル』の「5ステップ」への着目になり、「アンバサダープログラム」につながっていったのは、まさに実践からの知見だと思いました。

アンバサダープログラムは、既存顧客とのリレーションを通じて企業を新しいステージに発展させるだけでなく、CS戦略の有力な具体策でもある。この指摘は多くのマーケッターの参考になるのではないでしょうか。今回は理念編でした。次回は成果編で驚きのデータも公開します。

※このコラムは2016年7月12日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?