ファンをつくるは仕組み化できるセミナーレポート
こちらは8月17日(水)に開催いたしました、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社のオンラインセミナー、要約記事になります。
<登壇者>
株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 事業戦略マーケティング部 部長 藤掛 直人氏
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 アンバサダー/ブロガー 徳力基彦
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 アンバサダープラットフォーム ビジネスクリエイト事業部 部長 望田 祐作
2年で売上が約2倍になった
プロバスケットボールクラブ川崎ブレイブサンダースとは
設立73年の老舗のプロバスケットチームであり、第96回(2021年)と第97回(2022年) 天皇杯全日本バスケットボール選手権大会において2年連続優勝。バスケットボールは、世界で競技人口が1番多いスポーツであり、ブレイブサンダースの観客には女性も多いのが特徴である。
■スポーツビジネスの売上創出とは
プロスポーツには、大きく分けて事業面と競技面の2つが存在する。
事業面ではファンを拡大し売上をつくっていくことがメインとなり、競技面では試合に勝利することが重要となる。
通常、競技面がフォーカスされがちだが、事業面で売上を積み、ファンの方々を増やすことができなければ、競技面に対する投資ができなくなってしまう。
そのため、プロスポーツとして自立し、長期に渡って安定的にクラブを運営していくためには事業面で成果を出すことが求められる。
そして、プロスポーツクラブ経営において、売上の柱は大きく4つ存在する。チケット、グッズ飲食、スポンサー協賛、放映権の4つである。
全ての売上創出ポイントにおいて、観客動員数を増加させることがキードライバーになっており、スポーツビジネスでは重要視されてきた。
・チケット→動員数×チケット単価なので、売上が増える
・グッズ飲食→購入者の母数が増える
・スポンサー協賛→露出が増えるため、広告価値が高まる
・放映権→見たい人が多いということなので、試合価値が向上する
そして川崎ブレイブサンダースでは、近年の施策の成果として観客動員数を大幅に増やすことができている。
ただ、会場の元々のキャパシティー(5000席)や新型コロナウイルスの蔓延による感染対策などが原因で頭打ちになっている。
ホームアリーナにしている川崎市とどろきアリーナの席数は5000席であるため、満員にしても動員数は5000人以上に増やすことができず、コロナの影響で入場制限をしていた際は席数を半分の2500席で運用せざるを得ない状況であった。観客動員数の頭打ちは、チケット売上はもちろんスポンサー協賛に関しても影響がでてくる。
なぜなら、アリーナ動員数が頭打ちになれば、アリーナ内の広告価値も頭打ちになるからだ。それを解決するために川崎に収容人数1万人の新アリーナ建設を計画しているが、新たな5000人の観客をどこから動員するのか、といった問題が発生する。漫然と5000人規模のアリーナで運営していても、それ以上にファン層は広がらない。
そのため、これまで重視してきた観客動員数ではなく、アリーナの外も含めた「ファンの数」をKPIとして各施策を組み立てていくことにした。
■ファンが増えると企業に何を与えてくれるのか
そもそもファンを増やすのがなぜ重要なのかという点において、ファンの方が増えることによって起こる様々なメリットについて分解していく。
・ファンによる推奨行動が発生
コンテンツをみたファンが周りへ推奨行動をしてくれることで、周囲へコンテンツが拡散する。コンテンツを閲覧したり、コメントなどを書いたりしてくれるだけでも、プラットフォームのアルゴリズムによって、多くの方へその投稿を届けることができる。
・業界内でのアライアンス獲得
ファンの皆様による反響が業界内外からの注目を浴び、他社と戦略的パートナーシップを結ぶことができる。
・業界紙以外のメディア露出
ファンの方の熱狂がメディアに取り上げられれば、スポーツに関心のなかった人にまで情報や興味換気を促すことができる。
・協賛獲得 (YouTube・TikTok)
デジタル上でコンテンツを展開することで、登録者という形でアリーナ外のファンを可視化することができ、企業とのタイアップに繋がる。
これらの多くはスポーツ特有の話ではない。ファンの方が増えることでうまれる、上記4つの要素が相互作用しながら好循環を生んでいく。
■データの力で「ファンをつくる」を促進していくPDCA。
それでは実際にファンをつくる戦略をどう分解して実行しているのか紹介する。
1)個性の定義と体現
→まずは共感していただく個性を定義することが必要。個性のないものにファンは決して生まれない。
2)体験価値の最大化
→共感の方向性があっていたとしても、感動するような「良い」体験でないと、ファンになっていただくことはできない。つまり体験価値を最大化することは必須である。
3)体験人数の最大化
→どれだけ良いサービスでも、実際に体験してもらわないとファンにはなってもらえない。最終的には体験人数をいかに増やしていくかという点も重要になる。
特に、2)と3)はデータとデジタルの力で仕組み化できるポイントになっている。
参考記事:最強スキル「ファンをつくる」は3つのプロセスで仕組み化できる(日経クロストレンド)
データを活用するには、まずはデータを取れる状態にしていくことが重要。
多少の出血を伴ってでも、改善すべきところが見えない状態を無くしていく。
例えば川崎ブレイブサンダースでは、あえてチケット販売チャネルを一本化した。これまで複数のプレイガイド(入場券の予約や発券業務を行う事業体)を利用していたが、「Bリーグチケット」という専用プレイガイドに一本化する判断をした。
委託販売を活用すると幅広い客層にアプローチできるため、それらの購入経路を閉じることは売上減のリスクがあったが、データが集積されないという状況を改善することを優先した。結果として、ターゲット選定や効果測定を精度高く実行することができるようになった。
また、収集したデータを活用したPDCAの回し方も改善前と後では大きく異なる。
頻度でいうと週単位で改善をする場合もあり、試合ごとに調整ができる体制を整えている。リアルビジネスでは難度が高いが、サービスやプロダクトの体験価値を最大化するためには、このスピード感が大切だと感じている。このPDCAの効果もあり、来場者の満足度は60%から95%まで伸びた。
■各SNSやプラットフォームの役割の細分化
川崎ブレイブサンダースは他クラブと比べて観戦者内の若年層の割合が多くなっているが、その理由はデジタル施策の成功にある。
マーケティングフレームワークを元に自社風にアレンジをしたフローに沿って、デジタル施策を配置している。下記はあくまでブレイブサンダースの場合なので業界や商材によって、施策配置やフロー自体をアレンジしていくことが重要。
SNS運用は目的が不明瞭だと、効果を示すことが難しく、惰性で運用されてしまう事例が多い。
ただ、目的を明確にしたうえで、細分化し分解をすると効果を証明でき、コストセンターではなく、プロフィットセンターとしての役割を持たせることができる。
TikTok:【認知】 認知拡大を目的に運用。川崎ブレイブサンダースのTikTokでは、今までアプローチできていなかった新規層に接点を持てていることが調査結果から定量的に示されている。
YouTube:【興味】初来場者のうち50%以上の人が、チケット購入前にYouTubeを見ていることがアンケートで分かっており、集客効果が証明されている。さらにアリーナ外の広告媒体として協賛頂いたり、異業種コラボで多くの人に知ってもらったりする役割も果たしている。
LINE:【来場促進】関心度の低い方にも継続的にコミュニケーションできる手段として、来場を後押しする。登録者の属性によって表示内容を出し分けすることができるため、最適なコミュニケーションを取れている。
Twitter/Instagram:【感想共有】相互コミュニケーションを重視、既に好きな人に対し、熱量を高める役割を担う。
オンラインサロン :【コミュニティ形成】選手とファンだけではなく、ファン同士のコミュニケーションを重視している。
■仮説と意思でファンの解像度をあげていく
Q.なぜYouTubeに着手したのか?成功事例があったのか?
YouTubeの公式チャンネルは以前から存在していたが、3000人の登録者しかいなかった。
他社の成功事例やスポーツ関連で注目されているチャンネルはなく、
自身としても成功体験があるわけではなかった。
ただ、芸能人がYouTubeにチャンネルを開設し始めたことで一気にYouTubeが大衆化し始めたため、注力タイミングだと決断。様々な工夫を重ねた結果、14.6万人(2022年9月7日現在)まで登録者が増えた。
Q.コンテンツ投稿のコツは?
YouTubeに公開するコンテンツも以前は試合のハイライトシーンなどを作成・公開していたが、バスケに興味が無い方にいきなりプレー映像を見ていただくことは難しい。「検証してみた」や「挑戦してみた」など、YouTubeで広く受け入れられている形にコンテンツを変化させ、広く興味を持っていただくことが重要だった。コンテンツを固定化せず、プラットフォームに求められている形を把握する客観性が必要だと感じている。
Q.施策群を全てやるのは大変では?
今発表させてもらった施策群は、様々なトライアンドエラーがあった最終形態であり、全てを一気に着手したわけではない。そのため一から着手する際は、そのままトレースするのではなくスモールスタートしていくことが推奨される。まずは全ての目的を明確にしたうえで、PDCAを少しずつ回していくことが重要である。
リソースに関していうと、我々も最初は違う部署のメンバーの力を10%だけ借りるなどミニマムな体制でスタートした。施策を回し、積み重ねることで成果を証明していき、リソースを勝ち取っていった。
Q.取り組みの最初に、まずやるべきことは?
最初のステップとして、データを収集する体制をつくることは重要。しかし収集する前段階として、仮説を持ち目的を明確にすることは必須要素であると確信している。仮説がないと調査や分析の切り口は精度が低いものになるし、目的のないデータ収集は無意味なものになりがちだからだ。
そのため、事前にしっかりサービスについて理解をし、足を運んで現場でユーザー目線を持ち、実際に体験している人の顔を見てお客さんの解像度をあげること。これは今日から始められる有効な一手だと思う。
ゲスト紹介:
藤掛 直人 氏 プロフィール
株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 事業戦略マーケティング部 部長
1991年生まれ、東京大学経済学部卒。DeNAに⼊社後、スマホゲームのプロデューサーを務め、タイトル責任者としてファンコミュニケーションに従事。その後、小中高と親しんだバスケットボールを事業化すべく、スポーツ領域の新規事業開発を担当。バスケ事業の承継交渉をまとめ、社長室 室長として承継先の子会社立ち上げ・PMI・経営戦略立案を主導。体制構築後は川崎ブレイブサンダースの事業戦略マーケティング部 部長として、マーケティング領域を統括。クラブのファン層拡大に取り組む。観客動員数リーグ1位や、YouTubeチャンネル登録者数 JリーグとBリーグ含め1位、TikTokフォロワー国内プロスポーツクラブ2位などの成果を収める。