【ソーシャルメディア活用(2)サントリーホールディングス】「『ざわざわ感』演出で消費者との接点づくり」
「第二回ソーシャルメディア活用企業調査」(アジャイルメディア・ネットワーク=AMN調べ)でランキング2位のサントリー。ブログに始まりツイッター、フェイスブックなどに広がる同社のソーシャルメディア活用の考え方について、坂井康文さんに聞きました。
※このコラムは、2012年1月30日掲載宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。
ソーシャルメディアの取り組みはブログから
(広報部 デジタルコミュニケーション開発部 坂井康文さん)
――ソーシャルメディア利用を始めた経緯を教えてください。
坂井 :2000年の早い時期に、マーケティング部門と連携してウイスキーについての語り場というコンセプトの元で「ひびき場」という掲示板を始めました。これが広い意味では最初の取り組みになりますが、その当時はまだいわゆるソーシャルメディアという言葉がなかった時代ですね。
ソーシャルメディアという言葉が出てきてからで言うと、2006年に開設した「山崎蒸溜所ブログ」が最初です。このブログを運営していく中で、徐々にブログの感触を掴んでいき、2008年に「サントリートピックス」という広報部のブログを始めました。
(サントリー公式ブログ サントリートピックス)
「サントリートピックス」はメーカーとして、ものづくりや品質を訴求していこうという目的で、サントリーの様々な活動を広報部員の目線で取材しています。具体的には記者会見や工場に行ったり、社内の商品開発者へのインタビュー活動などを記事にしています。
ブロガーイベントも取り組み始めており、2008年3月に白州蒸溜所を体験するウイスキーのブロガーイベントを行いました。このイベントでハイボールを取り上げたところ、参加したブロガーさんから好評で、この頃からブロガーイベントの活動を本格化しました。
(白州蒸溜所で開催されたブロガーイベント)
ブログ以外のソーシャルメディアへの取り組みは最近になってからですね。2010年にツイッターとミクシィアプリを、2011年の6月にフェイスブックページを開始し、ミクシィページも8月に開始しました。
――ツイッター、フェイスブック、ミクシィに活動を広げていったのはなぜですか。
坂井: サントリーのホームページは月間ユニークユーザーが400万人くらいあり、非常に多くのお客様に見ていただいています。一方で、最近ではお客様がソーシャルメディアで過ごす時間が増えつつあり、我々としてはホームページも大事にしながらも、ソーシャルメディアへ「出かけていく」ことでお客様と会話をしていこうと考え、そうすることでお客様との接点も大きくしていこうと考えました。なので、主要なソーシャルメディアにアカウントを持ってコミュニケーションを取り始めました。「やってみなはれ」という弊社の社風もあり、新しいことへのチャレンジは基本的に歓迎されています。
(サントリー公式フェイスブックページ)
ソーシャルメディアで消費者のもとに出掛けていく
――ソーシャルメディアを利用する上で意識していることは。
坂井:さまざまな業界や、扱っている商品、商材でインターネットの活用法も変わってくると思いますが、サントリーでは、ホームページの取り組みが、お客様の商品購入促進につながっていると考えて取り組んでいます。
例えば車を買う時は、テレビや街中などで「この車かっこいいな」とか「この車欲しいな」と思ったり、「そろそろうちの車を買い替えたい」という時に考えはじめると思います。そして、情報収集は比較サイトを見たり車メーカーのサイトでスペックなどを調べたりして、目星をつけてからディーラーに行く、という流れが大体想定されますよね。そうすると、Webというのが購買プロセスの中にかっちり入っていて、効果測定もしやすいですし、価値も見出しやすい。この数を増やしていけば、きっとディーラーに行く方々も増えていいだろうなと。
しかし、私ども飲料メーカーはそういう目標設定が非常にしにくい業界です。今日飲むお茶を何にするかをネットで検索しようという人はあまりいませんよね。そのため我々は、自らソーシャルメディアへ出かけていき、「伊右衛門という商品がありますよ」「プレミアムモルツはいかがですか」「ハイボールがおすすめですよ」という情報をソーシャルメディアで発信することで、サントリーを常に身近な存在と感じていただけるよう取り組んでいます。自分から調べにはいかないけれど身の回りに情報があるという「ざわざわ感」が大事ですね。
――ソーシャルメディアを導入する上で、社内の説得など大変なことはありましたか。
坂井:企業だとどうしても部門ごとのミッションや領域があって、それを越えると調整がややこしい部分があります。ただ、弊社は先ほど少し述べたようにわりとそうした部門ごとの壁がゆるやかですし、新しいツールやメディアはとりあえずチャレンジしてみようという姿勢があって、応援してくれる人も多くいました。また、マーケティング現場に向けたWeb活用説明会を年に2回行うなど、社内でのソーシャルメディアに対する理解を深めてもらうための活動も行っています。
とはいえ、マンパワーとしては厳しい部分があります。ソーシャルメディアには運営するだけの人的コストも必要になってくるのですが、企業としては人材が不足していることはあっても余っていることはありませんから、そうした人的コストをどれくらいかけるのかというのが悩みの種でしたね。今は経営層と相談しながら、ツイッター、フェイスブック、ミクシィ、ブログなどひと通りのサービスを試行錯誤しながら運営しています。
ソーシャルメディア上で完結する顧客対応の体系化を検討
――今後の展開についてお聞かせください。
坂井:今はソーシャルメディアの黎明期なので何事も挑戦している段階ですが、今後ソーシャルメディアは確実に大きくなっていくと思います。その時に向けて、我々はソーシャルメディアと自社メディアと融合する必要があると感じています。たとえば、自社のメールマガジンの会員とフェイスブックのファンやミクシィの読者との連携を考えて、どこにいてもサントリーを身近に感じてもらえるように、体系化された仕組みをつくっていくことが中長期的には必要になってくると思います。
また、ソーシャルメディアが大きくなると組織の在り方も変わるでしょう。今は広報やマーケティングの部署がソーシャルメディア担当を兼任している企業が多いと思いますが、ソーシャルメディアが当たり前になればそうした担当も長い目で見ると無くなるのではないかと考えています。たとえば現在もツイッターやフェイスブックでの問い合わせがあった場合、内容によっては専用の窓口に連絡してもらうようにお願いすることにしていますが、ソーシャルメディアが普及すれば問い合わせ窓口が電話だけでなくツイッターやフェイスブックでも対応を完結できるようにすべきかもしれませんね。
――インタビュー雑感
サントリーさんは、マーケティング目的の利用だけではなく、その前段階として自社内でも積極的にソーシャルメディアの啓蒙を行っていました。消費者とのコンタクトポイントを大事にするのはもちろんのこと、社内でのコミュニケーションも含めた包括的な視点でソーシャルメディアをとらえていることの表れだと思います。社内の説得をするためには、まず社員にソーシャルメディアを使ってもらうことで、その利便性や楽しさ、ソーシャルメディアならではの「ざわざわ感」を知ってもらい全社的な理解を得ることは、企業がソーシャルメディアを活用する上で必要不可欠なプロセスなのだと思います。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当:AMNインターン 青山学院大学経営学部 芳賀ゼミ 糸井佑樹、人見彩菜
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