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【ソーシャルメディア活用(10)セガ】「労力に見合っているかどうかはこれからですね」

※このコラムは、2012年7月2日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


今回はユーチューブやニコニコ動画といった動画サービスを積極的に活用しているセガのコーポレート本部 プロモーション部 部長の竹内真司さん、副部長の三橋慶士さん、藤井睦弘さんに、開設予定のソーシャルメディア公式アカウントも含めてお話を伺いました。

(左から)三橋慶士さん、竹内真司さん、藤井睦弘さん

ユーチューブに移したらアクセス10~1000倍に
――動画配信サービスを活用されたきっかけを教えてください。

藤井:最初に始めたのはユーチューブです。当時は自社でも「セガチャン」という動画配信サービスを運営しており、ユーチューブからセガの専用チャンネルを開設してセガチャンの動画を配信して欲しい、との依頼を受けたのが2007年のことでした。

藤井:その当時からユーチューブは自分でも使っていたのですが、無料でもかなりの機能が用意されていたことに加え、アクセスも自社より圧倒的に多いことも体感でわかっていました。著作権の問題についても、動画のコピーを防ぐ技術も提供されるとのことで安心感がありましたね。

――実際にユーチューブを始められて手応えはありましたか。

藤井:当初の予定通りアクセスは大きく伸びました。伸び率で言うと高いものは1000倍くらい伸びた動画もありましたね。もともと自社配信の時から人気があった動画でも10倍くらいには伸びています。

――1000倍というのはすごい数ですね。どういった動画だったのでしょうか。

藤井:もともと家庭用ゲームやアーケードゲームは人気のある動画だったのですが、自社で運営しているアミューズメント施設のプロモーション動画などが想定外に伸びましたね。自社配信の時はセガに興味がある人が訪れていましたが、ユーチューブで配信することでセガのサイトには来ないけれど検索経由で動画にアクセスする、というユーザーも多く、結果としてより多くの方に動画をご覧いただけたと思います。

――逆にユーチューブ配信を初めて困ったことはありましたか。

藤井:我々が権利を持っている動画のコピーはアップロードできないという技術が実装されているため、著作権に関する心配はありませんでしたね。ネガティブなコメントの心配はありましたが、そうしたネガティブなコメント以上に視聴数が伸びたことのほうが我々には大きな成果でした。

また、苦労ではないですが、自社配信の頃に比べて動画の作り方は変わりました。自社配信の頃は動画ファイルを置いておくだけだったので、通信回線の環境を一番気にしていましたが、ユーチューブで配信する時はどの長さが一番見てもらえるのか、ビットレートが低くても美しい動画をいかに用意するか、という点に注力するようになりました。

ニコ動は見切り発車 結果で理解を得る


――その後ニコニコ動画も始められましたね。

藤井:ニコニコ動画を始めたのは半年くらい後のことです。ユーチューブでは実績を出していたのですが、ニコニコ動画の場合はユーチューブにはない心配がありました。

ユーチューブで実装していた著作権対策の技術はニコニコ動画にはありませんでしたし、コメント中心のニコニコ動画ではコメント内容への不安もありました。また、ニコニコ動画は動画の下に商品が表示されるのですが、他社の製品が表示されるのではないか、もしくは特定の会社の商品だけ表示されるが大丈夫か、という心配が営業側から寄せられていました。

――そうした課題はどのように理解してもらったのでしょうか。

藤井:説得はしたけれど納得はしていない、という状況で、どちらかというと見切り発車に近かったですね。慎重な意見も少なからずあったのですが、社長の決裁をもらってまずはやってみよう、という流れで開始しました。

――実際に始められてみて、そうした懸念はいかがでしたか。

藤井:ニコニコ動画は動画削除用のページを用意してくれたらすぐに削除できる体制になっていました。コメントについても「ニコニコ動画とはこういうものだ」とは理解してもらえましたし、よいコメントもたくさんついたので結果的には理解してもらえましたね。

――ユーチューブでの配信と比較して違いはありましたか。

藤井:動画の再生回数はさほどユーチューブと変わりませんでしたが、しばらくしてから「初音ミク -Project DIVA」のチャンネルを開設したことで視聴回数が伸びましたね。その頃に初音ミクの担当者が営業にかけあってOKをもらえたことで、ニコニコ市場も利用できるようになり、初音ミクの動画の下に「初音ミク -Project DIVA」を並べることができるようになりました。

イベントのライブ中継が好評


――ユーチューブとニコニコ動画以外で取り組まれている動画の施策はありますか。

三橋:最近はUstream(ユーストリーム)やニコニコ生放送などをイベントのライブ配信で使うようになりましたね。ゲーム大会のイベントを会場からライブ中継するといった取り組みを始めています。

竹内:昨年9月に幕張で開催されたアミューズメントマシンショー(※1)では、セガブース内のイベントをユーストリームで配信しました。同時刻に配信していた大阪の岸和田だんじり祭を抑えて視聴者数1位になるなど、ユーザーの反応は好評です。

(※1)ゲームセンター向けの最新ゲーム機をはじめ、アミューズメント・エンターテインメント機器など約1000アイテムが出展される業界最大の展示会。

――ユーストリームとニコニコ生放送で違いは感じますか。

竹内:我々としてはどのサービスで配信するというよりも、ファンのためにイベント大会を配信するプラットフォームとしてこうしたサービスを利用しているという意識で取り組んでいます。ただ、ニコニコ生放送のほうがニコニコ動画でゲーム動画を配信していることもあり、ユーザーも多いので結果として視聴者数は多いですね。

――ユーチューブやニコニコ動画のような動画配信と比較して、ライブ中継は人的コストも大きいですが、そうした労力と見合った成果の手応えはありますか。

三橋:労力に見合っているかどうかはこれからですね。ただ、こうしたライブ中継のインフラが整ったということは大きいです。ライブ中継を行うことでイベントの模様を会場だけでなく全国に伝えられるので、今後も効果的に使っていきたいと考えています。

――動画配信に続き、フェイスブックで公式アカウントを開設(7月上旬)されるとのことですが、開設の経緯を教えてください。

竹内:セガという会社はおかげさまで企業そのものへのファンも多く、そうしたファンとコミュニケーションを取りながらセガにもっと親近感を持っていただきたい、ということで開設することになりました。

――フェイスブックはどのように活用するのでしょうか

竹内:ファンとのコミュニケーションを主眼に置いています。セガの公式サイトやそれぞれのゲームは細かな製品情報がたくさんありますが、そうした宣伝的な要素よりはまずセガという会社と、そこで働く人の人となりを伝えていきたいと思います。ゲームの濃い情報を配信するというよりもコミュニケーションを積極的に取っていくことを考えているので、他の企業とは少し違った運営になるかもしれませんね。

ユーザーとのエンゲージメント率をKPIに


――コミュニケーション主体とのことですが、具体的にどのような運営を想定されているでしょうか。

竹内:公式サイトや各ゲームタイトルの情報とは違ったこぼれ話だったり体験記みたいなものを考えています。その他にも色々なアイデアは出ていますよ。最終的にはファン数が増えてからの話になると思いますが、お客さまと協力して開発し、何か物を作るというところまでいけたらなあ、と考えています。

――運営体制はどのくらいの規模でしょうか。

竹内:プロモーション部と広報部がアカウントを管理し、開発部や事業部などの意見も反映させながら運営していく予定です。専属のスタッフはいませんが、記事を書いたりアカウントを運営したりするスタッフが私を含めて10人程度でスタートします。

――セガではゲームタイトルごとにツイッターやフェイスブックを運用されていますが、こうしたアカウントも今後は一括で管理されるのでしょうか。

竹内:今後もゲームタイトルごとのアカウントは部署ごとに運営し、公式アカウントのみをプロモーション部と広報部で運用します。ソーシャルメディアを使うことが目的になっては意味がないですし、それぞれのゲームに合わせたアカウントの使い方がありますので、それは各部署に任せつつ、アカウントを運営する上でのガイドラインを策定しているところです。

――アカウント開設後の目標は。

竹内:いかにユーザーとコミュニケーションできるかということを主眼に置いているので、ユーザーとのエンゲージメント率をKPIとして考えています。とはいえある程度人数がいなければエンゲージメント率だけが高くても意味がありませんので、ファン数なども考慮しながら年間の目標を定めているところです。

―——インタビュー雑感
自社で展開していた動画コンテンツをユーチューブ上で展開し、よりファンに受け入れられるようになったという実績は、企業がすでに保有している資産をソーシャルメディアで展開することで良質なコンテンツに生まれ変わる良い例だと思いました。
また、新たな施策に取り組む際に、どのようなツールを使うかではなく、どの様なコミュニケーションをとるのかというポイントを明確にし、共通認識をもって取り組む重要性を改めて感じました。(アジャイルメディア・ネットワーク)

※このコラムは、2012年7月2日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。



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