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【ソーシャルメディア活用(8)良品計画】「店頭での接客と何ら変わりません」

※このコラムは、2012年5月14日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


今回は、企業として早くにツイッターやフェイスブックに取り組み、独自のソーシャル企画も次々に展開している良品計画のWEB事業部 コミュニティー担当の川名常海さん、風間公太さんにお話を伺いました。同社の「無印良品」ブランドとお客さまとの接点づくりの多様な事例とその背後にある考え方を紹介いただきました。

(良品計画のWEB事業部コミュニティー担当 右:川名常海さん 左:風間公太さん)

タイムセールでフォロワー1日1000人増加

――ソーシャルメディアに注目したきっかけを教えてください。

川名:2009年秋頃に風間と話をしていたとき、彼が「ツイッターを使ってみたい」と言い出したのがそもそものきっかけですね。

風間:当時はちょうど米国のオバマ大統領がツイッターを活用したことが話題になっていた時期でした。その頃私が担当していたECは、取り扱う商品数はとても多いもののCMやチラシで紹介される商品はそのごく一部でしかなく、より多くの商品を知ってもらいたいと考えていたときに「ツイッターは使えるのではないか」と川名に相談したのが始まりです。

川名:テレビCMやチラシ、店頭での紹介など、大きくプロモーションしていく商品はどうしても最大公約数的になってしまいがちですが、無印良品のブランドには、さまざまなストーリーをもった商品がたくさんあります。我々としてもそうしたストーリーをお客さまへ伝えていくことがブランドを強固にしていくと考えていましたので、風間の提案に対して「じゃあやろうよ」と。

――ツイッターの運用はどのような体制で行われているのでしょうか。

川名:初めも今も風間1人なんですよ。

風間:当時はツイッターを運営している企業も少なくて、本当に手探り状態でしたね。少ないながらもツイッターを活用されていたモスバーガーさんやTSUTAYAさんをお手本にしながら、どんな口調がいいのか、どんな温度感が無印良品に向いているのかを試行錯誤しながら取り組んでいました。

――運営に手応えを感じたタイミングはありましたか?

風間:大きな告知をしたわけではないのですが、情報感度の高い方々がフォローしてくれたこともあって、フォロワー数は順調に伸びていましたね。2010年2月にはフォロワー数が1万5000人を超えたので、「これは何かやりたいね」ということでタイムセールを実施しました。あらかじめタイムセールの予告をしておいて、予定の時間にタイムセール専用のURLを投稿したのですが、予告してから終了するまでの約24時間で1000人以上もフォロワーが増えました。ツイッターのようにリアルタイム性の高いプラットフォームではタイムセールがうまく合う、と感じました。

――その後フェイスブックも始められましたね。

川名:フェイスブックを始めたのは2010年10月頃ですが、こちらはツイッターよりももう少しストック型の運用を考えていました。具体的には無印良品が運営しているくらしの良品研究所との連携です。
くらしの良品研究所では、お客さまからいただいた意見をもとに商品を開発したり、お客さまに向けて無印良品の情報を発信したりという活動を昔から行っていたのですが、無印良品に愛着を持っていただいているファンの方々とは交流できていたものの、そこまでの熱量は持っていない方々に情報を届けられていないことを課題に感じていました。

「握手するくらいの距離感」を意識

もっと無印良品が日頃から行っている活動を伝えたい、という思いを持ちながらフェイスブックを調査していたところ、APIで連携することで「いいね!」が拡散していったり、フェイスブックページと連携することでコメントを共有できたりと、今まではオウンドメディアで閉じていた活動が連携できそうだということがわかりました。しかも運用にかかるシステムコストも格段に低い。漠然と感じていたものが、フェイスブックを「機能」として使うことで実現できるのでは、と感じました。

なぜ「機能」だったかと言えば、始めた当時はフェイスブックがそれほど盛り上がっていなかったからです。けれど肌感覚として「これは盛り上がりそうだ」という認識がありましたし、API連携でフェイスブックを機能として使うぶんには運営コストも低くお客さまとつながることができる。その後、映画「ソーシャル・ネットワーク」が公開されたり、ビジネス誌がこぞってフェイスブックを取り上げたりと盛り上がりはじめ、「これは来たな」と感じましたね。

――ツイッターは1人で運用されているとのことですが、フェイスブックはどのように運用されているのでしょうか。

川名:ツイッターもフェイスブックも風間1人で運用していて、それも他の業務との兼任で担当しているんですよ。ソーシャルメディア運用専門の担当者がいるという他社の話を聞くとうらやましく思いますね。

風間:とはいえ、周りから思われているほど大変ではないんですよ。無印良品はそもそもコンテンツが豊富で、ユニークな商品もあくさんあります。先ほどお話ししたくらしの良品研究所もそうですし、店舗も1つのコンテンツです。伝えたい情報が集まりやすい環境なんですよね。

川名:ただし、情報の出し方には注意を払っています。ツイッターもフェイスブックも、興味がなければ見なくていいものではなく、お客さまのタイムラインやウォールへ表示される情報になる、つまりはお客さまにとって近しい人だけがいていい場所に我々の情報が表示されるということを意識しなければいけない。風間はそのあたりをよくわかっているので、単に商品が発売されました、安くなりましたというだけではなく、ホームパーティーに出席するようなイメージで運用していますね。

風間:お客さまとの距離感は重要ですね。お客さまと近づきすぎず遠すぎず、「握手するくらいの距離感」ちょうどいいと考えています。

――ソーシャルメディアを運営していて「これはうまくいかなかった」という経験はあったでしょうか。

川名:2011年1月に、無印良品有楽町店の10周年を記念したクーポンキャンペーンを展開しました。ツイッターとフェイスブックの両方で、「無印良品といえば、○○○」という投稿に答えてくれた人にクーポンを発行する、という内容だったので、結果としてもとても多くのお客さまに来店していただき、ソーシャルメディアを利用した店舗送客施策として、大きな手ごたえを感じました。この成功を受け、4月に同様の企画を世界規模で実施したのですが、ツイッターでは問題なかったものの、フェイスブックはインセンティブを誘引することが利用規約に反するという理由でアプリが停止されてしまいました……。当時はフェイスブックのキャンペーンに対する利用規約などもあまり知られていなかったのですが、いい勉強になりました。

――運営は1人とのことですが、今後の引き継ぎや人数強化の際に運用ガイドラインなどは策定されるのでしょうか。

川名:ソーシャルメディアの運用ガイドラインに書くべきことというのは、結局のところ「当たり前」のことばかりなんですよ。お客さまと接するという点では店頭での接客と何ら変わりはないですし、ソーシャルメディアだから特別ということもありません。

風間:「お客さまに面と向かって言わないようなことはソーシャルでも言わない」というだけですね。自分でわかることはすぐ答えますし、わからないことはお客様窓口を紹介したり、こちらで問い合わせたりと、お客さまにとって「近くにいる店員」という位置付けで考えています。

アプリは「お客さまとの会話のきっかけ」

――ツイッターやフェイスブックといった外部サービスだけでなく、自社でもさまざまな施策を手がけておられますね。

川名:ソーシャルメディアも大事ですが、一番大事なのはその先にあるオウンドメディアへいかにして来てもらえるかだと考えていますので、オウンドメディアの充実も積極的に行っています。
2011年8月に立ち上げた「my MUJI」は、無印良品のファンでいてくれる方々が好きな商品、欲しい商品を語る場所を提供しよう、と開始しました。今まではWeb上で新規顧客を獲得するにはバナー広告などが一般でしたが、今は「友達が使っているから」「友達が買ったから」という要素が無視できなくなっている。my MUJIではファンの方々が楽しんでもらえることを第一の目的とし、ファンの方に何度も足を運んでもらったり、そこへ友達の会話の延長線上で新しいお客さまにも来ていただける場を目指しました。

――スマートフォン向けにカレンダーやノートブックといったアプリも提供されていますね。

川名:これまで無印良品は製品を店舗やWebサイトで販売していましたが、スマートフォンアプリのマーケットが登場した時に、「このマーケットで我々が販売すべき商品はなんだろう」と考えた結果がカレンダーやノートブックなどのアプリでした。

ただ、当初はコンテンツ販売そのもので利益を得ることを考えていましたが、結局のところは無料もしくは低価格に設定し、あまり利益を求めないことにしました。まずは利益よりもお客さまに使っていただき、それをお客さまとの会話のきっかけにしよう。アプリ展開の最初の目標はそこにあります。

――ソーシャルゲーム要素を取り入れた「MUJI LIFE」も始められました。

川名:これもコミュニケーションの考え方に近いですね。お客さまとのコミュニケーションというと、どうしてもメールで許可を取った上で「これが安いよ」「これが新製品だよ」という情報を送るばかりになりがちですが、もっと違う形はないのかな、と感じていました。MUJI LIFEでは、無印良品で取り扱う商品をデジタルコンテンツとしてコレクションできるゲームです。お客さまが自分の好きなコレクションを収集したり並び替えたりと遊んでいるうちに、新商品に気がついてもらえたりというコミュニケーションが自然にできあがるのではないか。そんな提案も込めてMUJI LIFEを開始しました。お客さまがコレクションしたい、という嗜好性が第一の目的ですので、Amazon.co.jpのCDや本なども自由に選べるようにしています。

Amazonが競合であってはならない

――他社の商品も扱うことに反対意見などはなかったのでしょうか。

川名:本棚に好きなものを並べるなら本やCDも並べたい、そうするとAmazonだよね、というのは自然な流れでしたね。Amazonが競合という意識はまったくなくて、むしろ無印良品は競合であってはいけないと考えています。Amazonで売っているクリアファイルは他のお店でも買うことができるかもしれませんが、無印良品で取り扱う商品は無印良品でしか買うことができない。そういう当社ならではのブランドがあるからこそ、他社を競合と考えることなく連携することができていると思います。

――大手SNSだけでなく、「giftee(ギフティ)」との取り組みもされています。

川名:無印良品にはさまざまな商品がありますが、残念ながらギフト市場に無印良品のニーズはないのかな、と感じています。ここぞという時の贈り物、たとえば彼女の誕生日プレゼントというときに、あまり無印良品の商品は選ばれないんですよね。

一方で我々としてもそういう市場に取り組みたいとは考えていて、日常の中でホームパーティーに持って行く時のちょっとしたお礼として無印良品を選択する、という風習が日本でも根付けばなあと感じていたところに、同じようなコンセプトでサービスを展開していたのがgifteeでした。ギフトを贈ることが日常に根付く、という風習はチャレンジしてみた課題でもありますし、それがデジタルサービスを利用して広がるという試みはとても魅力的ですね。

――今後ソーシャルで取り組んでみたい施策はありますか。

川名:やはり最終的には商売に結びつけなければいけません。これまではAISAS理論で言うと、カレーの引換券をプレゼントするキャンペーンで、無印良品と少し離れているお客さまにも認識していただいたり、MUJI LIFEのようなゲームで遊んでもらったり、もう少し無印良品と距離が近いお客さまにはmy MUJIを使っていただいたりと、お客さまに応じてサービスを整理し、狙いを定めて展開しています。

今後取り組んでいきたいのは、お客さまに商品を購入いただいた後のコミュニケーションですね。それはくらしの良品研究所にも近いのですが、実際に購入いただいた後に「ここがよかった」「ここがもう少し違っていたら」「こんな商品が欲しい」といった購買の先もソーシャルでつなぎたい。今はまだ実現できていませんが、くらしの良品研究所の次のステップとして取り組んでいきたいですね。

また、現在は分断化して提供してる各種サービスをIDなどで統合することも考えています。今はそれぞれのサービスが別々ですが、CURRYスゴロクを遊んで、MUJI LIFEでコレクションを作り、店舗へ行ったときにチェックインを使った、というときに、それぞれの活動を1つにつなぎ、関係性を理解した上でお客さまのおもてなしをしていきたい。いわゆる「ソーシャルCRM」みたいなことにも取り組んでいきたいと思います。

――インタビュー雑感


ツイッターやフェイスブックへ早くから取り組むだけでなく、独自のコンテンツやサービス展開にも積極的な良品計画ですが、その陰には「ソーシャル対応も店舗での対応も同じ」という、店頭で実際に顧客とコミュニケーションしている経験が非常に活きていると感じました。その上で良品計画が持つ独自のブランドを最大限に活用し、独自コンテンツも積極的に展開するその姿勢は、非常に学ぶところが多いお話ばかりでした。(アジャイルメディア・ネットワーク)

インタビュー担当 AMN 甲斐祐樹

※このコラムは、2012年5月14日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


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