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アンバサダーとの共創がプログラムを支えている(ネスカフェアンバサダー)

※このコラムは2016年10月4日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

前回の記事はこちら

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お客様と直接話す。一緒に創る。

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津田:アンバサダープログラムを行っていて良かった点は、お客様の話を直接聞けることです。定期的にアンバサダーさんに集まっていただき、毎回テーマを変えて座談会のようなことをしています。「何に一番困っていますか?」「今度新しいCMを作りますが、どんな要素を入れたらもっと響きますか?」など、実際にアンバサダーさんの意見を聞くことができるのが、すごくありがたいですね。

藤崎:他には、どのようなことを聞くのでしょうか。

津田:ネスレには、いろいろな事業部があるので、例えばキットカットのチームが「お客様にキットカットのことを聞きたい」という時にも、ネスカフェ アンバサダーに集まってもらい話を聞いたり、新しい商品やサービスを一緒に考えたりということもしています。

藤崎:アンバサダーからのフィードバックに関して、社内での理解の度合いはどのような感じですか。「それは本当に意味があるのか」という議論にはなりませんか。

津田:ネスレには昔からお客様との良好な関係を構築する専門のチームもあり、お客様の意見を取り入れることへの理解がありました。そうした企業文化もあり、反対する声はありませんでしたね。

実際、アンバサダーの方々との対話では、商品やサービスを日頃から使ってもらっているということもあって、建設的な議論ができていて、社内からも意見がすごく的を得ていて、新鮮だという感想が出ています。

藤崎:従来のマーケティング活動のなかで、ユーザーの声を聞くためには、調査会社を経由して人に集まってもらっていましたよね。

津田:そういう調査も決して否定はしませんが、アンバサダーの方々のほうがファンとしての度合いやモチベーションという点で、はるかに純度の高いので、良い面もありますね。

藤崎:当然といえば当然ですよね。むしろなぜ今まで、なぜこうした既存顧客との対話がおろそかにされてきたかが不思議です。

津田:私も今までいろいろなグループインタビューやイベントに参加してきましたが、アンバサダー同士の集まりほど盛り上がる座談会やインタビューはありません。みなさん本当に熱心で純粋な方々が多いです。それはアンバサダーの方々の多くが職場のちょっとしたリーダー的な人であったり、コミュニティの世話役だったりしますので、プロアクティブな姿勢の方が多いということも関係していると思います。また、働いている方が多いからでしょうか。現実的で建設的なご意見を頂けるので、私たちとしても大変助かります。

アンバサダーの声がプログラムを支えている

藤崎:アンバサダーからの具体的なアイデアや建設的な提案について教えてもらえますか?

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津田:アンバサダーとの記念すべき第一回目のミーティングで一緒に作ったサービスをご紹介します。これは私たちの課題を解決しながら、どうしたらアンバサダーのみなさんに、よりご利用いただけるのか、という大事なミーティングでした。

当時、私には悩ましい問題がありました。ネスカフェ アンバサダーは、最初、マシンを提供する条件として「ネスレ通販でカートリッジを1回は買ってください」という仕組みで始めましたが、実際に始めてみると、応募数も多いかわりに、離脱も大変多かったのです。

私たちとしてはより多くの人にコーヒーを楽しんでもらいたいという思いから、低いハードルに設定したわけですが、離脱者があまりに多いと、コストの関係を考えざるを得なくなります。つまり、このままではやっていけなくなるのではないか、という話が社内で出始めました。そこでやはり「定期便」のような運営にしなければいけないのではないかということになりました。ただ「カートリッジを1回は買ってください」という条件に比べて「定期便」は一般的にはハードルが高いイメージがあり、どうしたものだろうと思案していたわけです。

藤崎:なるほど、それは悩ましいですね。

津田:そこで、アンバサダーのみなさんに当社まで来ていただいて、悩んでいる状況を素直にお伝えし、意見を求めました。「定期便サービスについてどう思うか」「どんな内容だったら離脱しないで続けてもらえるのか」などです。

藤崎:そのこと自体素晴らしいですね。アンバサダーのみなさんにそこまで大事なことを相談するというのは、従来では考えられませんよね。

津田:アンバサダーのみなさんから、「自分はどういう条件なら残るか」、たくさんのご意見をいただきました。まずはお買い得であること。フレキシブルにして欲しいということ。数の縛りもなくした方がいいこと。「ネスカフェ バリスタ」だけでなく、「ネスカフェ ドルチェ グスト」や、「キットカット」も一緒に購入できれば便利といった、たくさんの要望が集まりました。

藤崎:それはそれで、要望が集まりすぎるということはなかったのでしょうか。

津田:いえ、せっかくの機会でしたので、どうしても無理なことを除いて、できるだけみなさんのご要望にお応えしようと思いました。今、実際に運営している「定期便」の仕組みは、その時のみなさんのご要望から生まれています。つまり、ネスレの各商品をお客様の好きな個数だけバスケットに入れて、さらにお届けの頻度も選べるようにしたのです。おそらくこのような定期便サービスをやっている会社は他にないと思います。

藤崎:確かにいろいろ買えるというのは、すごいですね。

津田:ただし、バスケットのサイズが4千円以上にならないと送料は無料になりません。そこで、現在は大体の人が4千円のバスケットを作り、あとは頻度に合わせて商品や数量を選ぶ形が多いですね。

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藤崎:金額設定に関しては、例えばユーザーからすると「4千円は高いから2千円からにして欲しい」という意見がでるのは容易に想像できます。メーカーとしては、いろいろな商品をワンパッケージにしてお送りするためには、ある程度の金額でないと無料発送はできないという事情もありますよね。

津田:そのバランスは本当に重要です。いくらだったらみなさんは定期的にお支払いできるのか、という金額感はミーティングでも議論になりました。ただ、みなさん働いていらっしゃる方々で、消費者としてはカートリッジ1本から無料発送にして欲しいけれど、それではアンバサダープログラムそのものが破綻してしまう可能性やビジネス事情もある程度わかってくださるわけです。

藤崎:津田さんがいろいろな情報を開示して、アンバサダーのみなさんに一緒に考える仲間になってもらったから、そこまで親身なディスカッションができたのではないかと想像します。とても理性的な関係ですね。そうしたギリギリの議論の結果、4千円だったらという結論になったわけですね。アンバサダーのみなさんが「それはそうだよね」と納得されたことも含めて大きな成果だと思います。

津田:それが私にとってアンバサダーさんと初めて一緒に作ったサービスでした。実際にそのサービスが導入されてからは、ほとんど離脱がありません。

藤崎:それは本当に素晴らしいですね。

津田:そのミーティングで、私はアンバサダーのみなさんと何かを一緒に作っていく大切さや価値を確信しました。

その後、社内の他のプロジェクトであってもユーザーの意見が欲しい時には積極的にアンバサダーのみなさんのお力を借りるようにしています。例えば、社内の製品開発で、何か女性向けの新飲料を考えようとしている時に、アンバサダーの方に来ていただいてプロジェクトに入ってもらったり、絵を描いてもらってこんなパッケージが良いとか、そんな座談会をやったりもしています。

また、キットカットでこんなフレーバーがあったらいいなとか、こんなサービスがあったらいいな、などということも話し合ったりしています。

藤崎:最近、「お客様との共創」という言葉が、まるで時代のキーワードのようによく使われます。その場合、一般的には「商品開発」などをさすことが多いようです。でも津田さんの話を聞いていて感じたことは、「商品開発」のような高い目標を掲げなくてもお客さまと一緒にできることはたくさんありそうだということです。そもそも一緒に話をすることが大事なのだなと感銘を受けました。

また、さまざまな成果を挙げている理由として、メーカーと消費者という関係を超えて、情報を開示して一緒にやっていこうという姿勢そのものが、アンバサダーのみなさんを仲間にしているのだろうなと思いました。

津田:姿勢は、すごく大事ですね。こうしたインタビューでは伝えるのが難しいのですが、アンバサダーのみなさんはお客様です。それでも、必要以上にこちらから壁を作らないことも大事です。商品やサービスを巡って、どうしたらいいのかと議論する時には、ある意味、仲間として対等になってもらう必要もあります。座談会やミーティングでの、そういう空気感の作り方はすごく難しいですし、ノウハウも必要なことだと思います。

私たちはアンバサダーさんと、ワークショップをやったり、サンクスイベントのようなこともやりますし、一緒にボランティア活動をしたり、いろいろ一緒に活動していますが、アンバサダーのみなさんとの本音で話せる関係づくりはとても大事ですね。

藤崎:ネスレさんのアンバサダープログラムが成功している理由として、そうしたお客さまとの“本音で話せる関係づくり”があるのですね。そのことに、企業とお客さまとの新しい関係が始まっているのを感じます。

アンバサダーの方々と顔を合わせる重要性

藤崎:私はアンバサダーの方々のモチベーションについて興味があります。先ほどの共創のお話ではアンバサダーの方々は、いわば無償でネスレさんに協力してくれているわけですよね。ということは、何がアンバサダーのみなさんの動機づけや報酬になっているのでしょうか。

津田:アンバサダーの方々にお会いして、彼らの意見を聞くこと自体がモチベーションを上げることにつながっているようです。もちろん、自分たちの声がメーカーの商品やサービスに反映されることがあれば、アンバサダーの方々にとってもうれしいことなのではないかと想像しています。

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藤崎:なるほど。顔を合わせて話をすることが大事なのですね。

津田:そうですね。アンバサダーのみなさんとの関係で私が実感しているのは、「実際に会って社員の顔を見せる・見えることの重要性」です。例えば、「原宿でこういうテーマで座談会をしたい」とアンバサダーの人たちに投げかけると、本当にたくさんの応募があり、話を聞くことができます。イベントなどのアンケートでいただく回答でとても多いのが、「自分たちが普段、口に入れているものを、どんな人たちが考えて作っているのか、社員の顔が見えたことが良かった」というものです。

つまり、アンバサダーのみなさんにとっては社員や実際の担当者と会うこと自体が、イベントに参加して良かったと評価するポイントの1つにもなっているようです。

藤崎:それはすごいですね。イベントの内容と、どちらの評価が高いのでしょうか。

津田:もちろんイベントの内容自体への評価や満足度も高いのですが、「社員の人はこういう思いで作っているんだ」と知ることも高い評価のポイントをいただいているということです。これは私も半信半疑なくらいですが、社員の顔が見える、話が聞けるという価値は上位に来ますね。

藤崎:シンプルですが、顔を合わせるというのは、大きな価値なんですね。

津田:不思議ですが、その通りです。考えてみれば私たちが普段使っている商品に関しても、その商品を作った社員の顔に関しては、普通は見えないですよね。でも、その商品担当者に会えたとしたらどうでしょうか。嬉しいと思います。つまり、企業とユーザーの距離が近くなることが求められているのだと思います。

藤崎:それはインターネットの時代だからでしょうか。

津田:どうしてなのかはわかりませんが、本当にシームレスというか、壁がないというか、そうしていかなければいけない時代なのかもしれないですね。私たちは、いろいろな機会を提供してアンバサダーのみなさんに喜んで頂きたいですし、私たちもアンバサダーのみなさんの知恵をお借りしたいと思っています。ですので、リアルの場も含めて、お互いの関係を今後も深めていこうと思っています。

藤崎:考えてみれば、今までメーカーの側は、消費者にとって人の顔が見えない存在だったと言えるかも知れませんね。私は以前、テレビCMを作っていましたが、そこで意識していたのは、いかに企業の顔を見せるかでした。しかしそれはあくまで表現上の比喩であり、本当に社員が登場するという意味ではありませんでした。それに対して、今や、こうしたアンバサダープログラムによって、消費者が企業と直接つながることができる仕組みができた以上、本来大切にされるべき「直接会う・会って話をする」、という価値が再度、見直されてきたというのは、とても納得できるお話です。

今日はありがとうございました。

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今回のポイント

お客様と直接話す。一緒に創る。
アンバサダーの声がプログラムを支えている
アンバサダーの方々と顔を合わせる重要性


今回のまとめ


前回は「ネスカフェ アンバサダー」のビジネスモデルが誕生したきっかけを知りました。そして今回は、ネスレさんが実際の運用において、いかにアンバサダーのみなさんの声を重視しているかを知りました。企業とアンバサダーとの関係がここまで深いという事実を、多くの人は知らないのではないでしょうか。直接会って話をする重要性や、一緒に何かを創るプロセスも大変参考になるのではないでしょうか。

アンバサダーのみなさんとの“本音で話せる関係づくり”は、簡単なようで、なかなかできるものではありません。企業とお客様との「共創」は流行りのワードであり、その理念に賛同する企業は多いようです。では何をどうやって進めていけばいいのでしょうか。おそらく現実的な課題がたくさんあるからでしょう。共創に関して日常的に成果を挙げている事例はほとんど聞きません。そうしたことを考えると巨大で壮大なプロジェクトを組んで何かを行うのではなく、ネスレさんのようにアンバサダーのみなさんと行う近しい関係のアンバサダープログラムこそ、現実的な「企業とお客様との共創」なのでなないかと思えてきます。

※このコラムは2016年10月4日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


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