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【ソーシャルメディア活用(11)タワーレコード】「顧客への情報伝達に対する危機感が、ソーシャルメディア活用を加速した」

※このコラムは2012年7月17日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


今回は全国の店舗それぞれでTwitterアカウントを運用するなど非常に多くのソーシャルメディアを運用するタワーレコードの取り組みを、CRM推進室ソーシャル・マーケティング担当部長の宮崎清志さんにお伺いしました。

Twitter運用は業務ミッション


――ソーシャルメディアを使い始めたきっかけを教えてください。

宮崎:ソーシャルメディアを使い始めたのは2008年夏のことでした。タワーレコードは毎年夏フェスに協力して自社のブランディング活動を行なっていたのですが、2008年は今までと違ったことをやりたいという思いに加え、Webを使って音楽ファンとコミュニケーションを取ることも始める時期だと考えており、多くの音楽ファンが集まる夏フェスで一歩進んだブランドコミュニケーションを図っていくことが目的です。

その年の夏フェスでは、YouTubeとmixi、そしてTwitterを活用することにしました。YouTubeでは夏フェスに参加したアーティストの意気込みやステージの感想をインタビューし、その動画をその場でアップロードすることで、夏フェスに興味を持っている方へのPRを行ないました。また、mixiでは夏フェス限定のコミュニティを開設し、撮影した動画をコミュニティへ投稿したりという連携を行なっていました。

Twitterはこれらサービスとは別の目的で、各ステージにスタッフを配置して実況を行なうことで、他のステージの盛り上がりが気になるオーディエンスに各ステージの状況を伝えることが狙いでした。ただ、2008年当時はTwitterが今ほど盛り上がっていなかったこともあり、思ったような反響はなかったですね。タワーレコードのサイトにTwitterの投稿が反映されるため、サイトを訪れた方には会場の様子を伝えられたのですが、肝心の夏フェス参加者とのコミュニケーションはなかった、というのが実情です。

――2008年というとTwitterもやっと日本語化されたばかりという状況でしたが、それでもTwitterを使われた理由はどこにあったのでしょうか。

宮崎:まずは無料だしやってみよう、ということですね。海外ではTwitterが流行しているのがわかっていましたし、スタッフもTwitter専任ではなく、自社のフリーマガジン「bounce」編集部がライブレポートを書く間にTwitterに投稿する、という兼任作業だったことで実施することができました。

また、弊社社長の嶺脇(当時取締役)が、常々Webプロモーションをやっていこうという姿勢でリーダーシップをとっていたこともあり、Webの活用には非常に前向きでした。Twitterのような新しいWebツールを利用する際も、社内や上層部にTwitterが何なのか説明しなければならない、という必要がなかったのも大きかったですね。

――Twitterは思ったほどの成果がなかったとのことですが、現在は非常に多くのTwitterアカウントを積極的に運用されています。何がきっかけでTwitterを使われるようになったのでしょうか。

宮崎:夏フェスをきっかけにタワーレコードのTwitter公式アカウントを開設したものの、「今はまだ効果がない」ということで1年くらい休眠状態にあり、改めて動き出したのは2009年秋頃のことですね。

それには2つの動きがありました。1つは前述の社長が「Twitterがそろそろ流行しだしているので、やってみたほうがいいのではないか」と動き出したことです。社長自らタワーレコードの公式アカウントで投稿しはじめたら手応えがあったようで、「Twitterを利用して情報発信した方がいい」という流れになりました。

それと同じ頃、タワーレコード渋谷店7階にあるタワーブックスがTwitterアカウントをスタッフの判断で独自に始めていました。タワーブックスは洋書を多く扱っているだけでなくお客さまに海外の方も多いので、英語に堪能なスタッフが多く在籍していたんですね。そうしたスタッフは海外でTwitterが流行している事も知っていますし、実際に海外の友達ともTwitterでやり取りしていてなじみがあったようです。

どちらも根底にあったのは、集客やお客様への情報伝達に強く危機感を覚えていたことです。タワーレコードは音楽情報の発信基地で、タワーレコードに行けば新しい音楽に出会える、そんな場所を目指していますが、インターネットで音楽情報をチェックでき動画サイトで楽曲試聴もできる時代になった今、店内で情報発信しているだけでは、音楽との出会いを提供できなくなってしまうのではないか。これからは商品やキャンペーンの情報はもとより、イベントやライブなどリアル店舗の魅力を店外の音楽ファンに積極的に届けていかなければいけないのではないか。店舗勤務経験の長い社長や、お客様と日々接している店舗スタッフが、同じ問題意識の中、試行錯誤してたどり着いたのがTwitterだったのです。

こうした流れで、会社としてもきちんとTwitterのアカウントを運用してプロモーションしよう、と始めたのが2009年秋になります。

――ソーシャルメディア運用への不安はなかったのでしょうか。

宮崎:そういう話もありましたが、我々はもともと接客業としてお客様に対応していますし、店頭接客の延長線上で運用すれば問題ないだろう、と考えていました。とはいえソーシャルメディアならではのリスクや効果的な活用方法もありますので、運用ルールや禁止事項をまとめたガイドライン、投稿内容や告知方法といった運用のコツを交えたマニュアルを作成し、担当スタッフ間で共有しました。

――Twitterの運用は誰が担当したのでしょうか。

宮崎:基本的には「やりたい!」と手を挙げたスタッフですね。当初は広報アカウント、音楽ニュース、渋谷店、新宿店など10アカウント程度ですが、2、3カ月ごとにアカウントはどんどん増えていきました。

――本格的なTwitter運用を開始して手応えを感じたのはいつ頃でしょうか。

宮崎:2009年冬にタワーレコード30周年を記念したライブで、Twitterレポーターを募集しました。3組6名程度の小規模ではありましたが50名を超える応募をいただき、当日もライブを楽しみつつTwitterで積極的にレポートして、とても盛り上がりました。

レポーターには「ライブ中少なくとも数ツイートはしてください」という程度の条件は設けたのですが、実際にはライブに夢中になってあまりツイートしないのではないか、と思っていました。ところが想像以上にツイートしていただき、さらにはレポーター同士や来場できなかったファンの方ともコミュニケーションを図るなど、予想もしていないところで盛り上がりがみられました。

ライブ後の意見交流会でも「普段と違ってレポーターとして招待されるのは嬉しいし、レポートするのも楽しかった」と好評でした。この施策がTwitterを使った初めてのユーザー参加型の取り組みだったのですが、Twitterと音楽との親和性について非常に手応えを感じましたね。

――逆に苦労されたことはありますか。

宮崎:今でこそ全店でTwitterを運用していますが、その途中ではいろいろ苦労もありました。ユーザー目線で考えたとき、Twitterのアカウントは店舗ごとに加えて音楽のジャンル別でもあったほうがいいと以前より考えていました。先にはじめたK-POPやアニメのアカウントはフォロワー数も急増し成功していたのですが、他のジャンルに広げようとしても業務中にそこまで手が回らなかったり、トラブルにどう対処していいかわからないというネガティブな反応が根強かったです。

(タワーレコード店舗のTwitterアカウント一覧。今では全店舗が活用している)

店舗も同様で、大型店舗は積極的に運用して反応もいいのですが、小型の店舗はスタッフの人数も多くありませんし、投稿ネタになるイベントも少ないため、なかなか手を挙げてくれませんでした。

とはいえ商圏によってTwitterユーザーの人数に違いはありますし、モチベーションが不確かなまま無理に運用してもお客さまには伝わってしまう。Twitterはあくまで宣伝手法の1つであって、Twitterをやらないからだめということではなく、あくまで店舗スタッフの自主性に任せていました。

2012年春までに店舗の約半分がTwitterを運用していたのですが、年度が変わるタイミングで社長が「Twitterは宣伝業務の1つとして全店舗で運用しよう」と判断し、ガイドラインやマニュアルを改めて策定した上で、4月からはTwitter運用を業務ミッションとして全店舗&12のジャンルでスタートしました。

ソーシャルメディアの世間的な普及、スマートフォンによる運用インフラの整備、さらにはTwitterによるPR効果や集客への寄与が数値結果として明らかになってきたことも背中を押しました。


POPを上手に書くスタッフはTwitterの運用も上手い


――4月にTwitterを始めたスタッフの反応はいかがですか。

宮崎:店舗によって反応は様々ですが、イベントへの集客、Twitterでのお問い合わせ、タワーレコードをキーワードとした多数のツイートなど、情報発信することで新たな反応や注目が生まれていることは実感しています。

また音楽小売では毎週新しい商品が発売されますので、情報が陳腐化しやすい傾向にあります。だからこそ即時性の高いTwitterで情報発信することは有効で、鮮度の高い情報を伝えることで集客や購入の機会を増やせると考えています。

――接客業だからTwitter運用も問題ない、というお話もありましたが、レコード店の場合は音楽を紹介するPOPがTwitterの空気に合っているのでは、という印象もあります。

宮崎:そうですね、POPのコメントを書いていたスタッフは、やはりTwitterの運用も上手いです。また、これはタワーレコードの風土かもしれないですが、ツイートの「ノリ」も親しみやすいんですよね。特に自身が好きなジャンルについては短いコメントからも熱が溢れています。これはスタッフの顔が見えてとてもいい効果を生み出していると思います。

――店舗以外のアカウントは誰が担当しているのでしょうか。

宮崎:ジャンルアカウントは、それぞれのバイヤーが業務の一環として担当しています。全体の運用管理や、ソーシャルメディアのマーケティング推進については、2011年春にソーシャル・マーケティング推進プロジェクトでチームを結成し、私を含めて3人の担当で運用しています。

――そのプロジェクトではどのような業務を行なっているのでしょうか。

宮崎:2011年春までTwitterを含めたソーシャルメディアは主に情報発信を目的として運用していましたが、小売として活用するのであれば売上を最終的なゴールにしたいという思いがあり、そのためのトライアルや検証を腰を据えて行いたいということから、社長が音頭を取りスタートしました。

効果検証は、ターゲットやマーケットを明確にしたほうが結果が見えやすいため、ジャンルアカウントにフォーカスし、いくつものジャンルの中からマーケットが大きいK-POPを対象にして行ないました。K-POPファンの中心は女性層であり、クチコミが伝わりやすいとの仮説もありました。そこで、K-POP好きな社内スタッフを公募し、1年間に渡ってK-POPの販売促進を目的に、ソーシャルメディアのマーケティング活用を推進するプロジェクトを展開しました。

結果は先日のアドタイでも掲載いただきましたが、Twitterからタワーレコード・オンラインへの流入は飛躍的に増加し、K-POP関連ページのトラフィックも大幅増を実現。タワーレコード・オンラインでの集客や広告効果として非常に大きな成果を得ることができました。このプロジェクトは1年間で終了したのですが、非常によい成果が出たので現在も継続展開しています。今後はジャンルの拡大も視野に入れています。

――どのようなジャンルに広げていくのでしょうか。

宮崎:正直まだ迷っています。当時K-POPは他のジャンルに比べ情報が少なかったことと、海外の情報や輸入盤をタワーレコードのフィルターを通して伝えることに意味がありました。まだマーケットが小さい時期から積極的に取り組んだことで、ファンの方からも多数の支持をいただきました。その点でK-POPと同じくらいの成果を他のジャンルで上げるのは難しいかもしれませんが、方法を模索していきたいと思います。

目的に合わせてさまざまなソーシャルメディアを活用


――最近ではTwitter以外にFacebookも活用されていますね。

宮崎:「無料のサービスは全部試してみよう」というスタンスで、ソーシャル・マーケティング推進プロジェクトの発足と同時に開始しました。併せてブログやmixiページも開設しています。

――写真共有サービスとしてFlickrも活用されているのは驚きました。

宮崎:実はFlickrを使い始めたのはTwitterと同じ2008年の夏フェスで、会場で撮影した写真を肖像権の許諾を取った上で掲載しています。最近ではライブ事業部が開催したライブのステージ写真をレポートとして公開しています。

――他のサービスと比べるとFlickrは日本語にも対応しておらず特異な印象を受けますが、Flickrを選ばれた理由は。

宮崎:国内のサービスも検討しましたが、スタイリッシュで見栄えが良かったこと、そして操作も簡単で手軽に使えたことが理由ですね。Flickr社には「こういったプロモーションを行ないたい」というメールを英語で送り、確認を取った上で運用を開始しました。

――Twitter以外のソーシャルメディア運用の手応えはいかがですか。

宮崎:Ustreamの視聴者数は次第に増加しており、確実に視聴者の幅が広がっていますね。番組内で紹介したCDを購入してくださる方や、「明日買いに行きます」といったツイートが番組中タイムラインに流れたりと、Ustreamを通して販売促進の効果も出てきました。

我々の目的は音楽と出会う最良の場所を提供することであり、それは店舗に限らずソーシャルメディアでも同じことだと実感しています。

――Ustream以外のアカウントはいかがでしょうか。

宮崎:これは推測ですが、mixiユーザーはコミュニティを重視されているのではないでしょうか。「タワーレコード」や「NO MUSIC, NO LIFE.」のmixiコミュニティは数千~数万人の参加者がいるのですが、夏フェスの際にタワーレコードがタイアップしたコミュニティはその数に到底届きませんでした。そのとき感じたのは「mixiのコミュニティに企業が入ってはいけないのかな」ということですね。mixiページは開設して半年以上経ちますが、まだ手応えを感じていないというのが正直なところです。

FacebookページはK-POPが伸びていますね。アジア全体でK-POPが盛り上がっていることもあり、海外の方も含めて8万人近いファンを獲得しています。

(海外からのファンも多い、K-POPのFacebookページ)

ただ、FacebookもTwitterに比べると何を投稿していいか、悩ましい部分があります。音楽ニュースは毎日のようにあり、他にもインタビューやイベントレポートなど、投稿するコンテンツには事欠かないどころか多いくらいなのです。こうした情報を発信するのにリアルタイム性の強いTwitterは非常に相性が良いですが、一方でFacebookは情報発信の場とすべきなのか、それともファンとのコミュニティの場とすべきなのか、試行錯誤を続けている状態です。

――ブログはどのような位置付けなのでしょうか。

宮崎:フローメディアであるTwitterやFacebookで投稿しているのは、拡散を目的とした鮮度の高い情報である一方、ストックメディアであるブログでは時間が経過しても読み返せる質の高い記事を生成するようにしています。例えば、チャートやレビューなどをYouTubeの動画を交えつつ紹介したり、Ustreamやイベントのレポートなどをエントリーしています。アーカイブされた記事は、アーティストやタイトル名で検索された際に再び注目を浴び接点を創出することができるため、一定のクラスタに存在感を示すことができます。またCVRがほかに比べ高い傾向にあり販売促進においても重要性を感じています。

――今後取り組みたいサービスはありますか。

宮崎:動画配信については、出演者によってメディアの好みもありますので、UstreamだけでなくYouTubeやニコニコ生放送などいくつかのプラットフォームで配信できるような環境を整えたいと考えています。さらに、アニメ系のイベントであればニコニコの相性がよさそうだなとか、ターゲットに合わせたプラットフォームの利用も検討したいですね。

LINEも興味はありますが、ちょっと高いですね(笑)。Google+では、インタビューや連載記事など、タワーレコードのオリジナルコンテンツを公開しています。現在は企業ページ1つのみですが、今後利用者の幅が広がるようであれば、ジャンルページを立ち上げ、YouTubeやショッピングなどGoogleのサービスと連携して取り組むのもよいかもしれません。

そのほか、Tumblrはブログ利用に加え、NO MUSIC, NO LIFE.ポスターのアーカイブとして、Pinterestは夏フェスグッズや音楽アクセサリーなど、タワーレコードがオリジナルで制作しているグッズを中心に紹介しています。
どちらもクリッピングできることが強みですが、権利面を考慮しつつそれぞれの特性に合ったコンテンツを取り上げていきたいと思います。

そうした各種サービスの特徴も分析していきたいと思います。

―——インタビュー雑感
消費者のニーズの変化が激しいエンターテイメント業界において、常に消費者のニーズの変化を捉えながら、情報発信を行い、コミュニケーションをとっていくというのは非常に大変なことだと思います。ただ、それが実行できるのは、日頃から実際の店舗などでお客様と向き合ってビジネスをしているタワーレコードの強みの一つだと思いました。

また、ソーシャルメディアの活用を、単なる情報発信に留まらず、ファンとのコミュニケーション、ファン同士のコミュニケーション活性化につなげる取り組みは、ソーシャルメディア活用の本質なのではないかと感じました。(アジャイルメディア・ネットワーク)

※このコラムは2012年7月17日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。


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