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【ソーシャルメディア活用(21)東急ハンズ】「ゆるいコミュニケーションが成功という風潮には危機感を覚えています」(前編)

※このコラムは2013年1月15日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

今回は国内でも早い時期からツイッターを活用している東急ハンズに伺い、 ITコマース部 EC企画課の緒方恵さんにツイッター運用の秘訣も含めたお話をお聞きしました。

始めるにあたり、「お金がかからない」点を強調した


――ツイッターを始めたきっかけを教えてください。

緒方:本格的に運用を開始したのは2009年7月のことです。当時はまだ国内で企業がツイッターを活用している事例が少なく、手探りで運用の最適化を模索していました。

影響を受けたのは例えば海外の事例で、オバマが選挙で活用して大成功を収めたというニュースを見ていたり、すでに個人的に利用していた社員もいたので「これは面白いんじゃないか」と思ったのがきっかけですね。

東急ハンズはいわゆるマス広告はほとんど行っておらず、お客さまへ商品やサービスをお知らせするツールや方法は新聞の折り込みチラシや店頭での告知以外では、ダイレクトメールやEメールが主流でした。

現在Eメールは一配信で約90万通を送信しているのですが、それに変わる・補うプッシュツールとして活用できるのではないか、と期待はもちろんしました。全店で約60万点ある商品も、チラシやメルマガで紹介できるのはごくわずかですので。

とにかく、「とりあえずやってみよう」という実験の意味合いも多く含む形で始まった、というのが実際のところですね。

――国内でも事例が少ない時期に、ツイッターを運用することで社内からの反対の声はありませんでしたか?

緒方:あまりありませんでした。私が所属しているITコマース部はネットに一番詳しい部門として関連業務を任されていたことに加え、そもそもツイッターという名前がそれほど広がっていなかった頃なので、「だめだったらやめればいい」というスタンスでした。「今から」始めるのであれば、もっとハードルも高かったでしょうから、その点は苦労が少なかったと言えます。
 
運用を開始する際に社内で強調したのは「お金がかからない」という点です。ツイッター自体も無料ですし、誤解を恐れずに言えば人的リソースも軽微です。

メールマガジンは画像やHTMLなどを作成するのに1日から2日は必要ですが、それに比べてツイッターははるかに短い時間で簡単に投稿できるという点が長所です。

ツイッターを利用した在庫検索システム(コレカモ.net)を構築したりはしましたが、基本的にお金や人的リソースを大きくかけず今も運用を続けています。

運用を継続する、ということがなによりも大事だと考えてます。それはつまり、無理がないように、最適化して運用するということです。細く長くを積み重ねて、分母を広げていくという事が本質的だなと。

その積み重ねにより、運用初期にあったようなツイッター=「遊んでいるんじゃないか」と社内で思われるような風潮も、今ではバイヤーや店舗から「この商品を紹介して」と依頼されることも多くなっており、「威力のあるもの」として、ようやく認知が広がってきました、というところです。

ツイッターの気軽さが、小さな来店喚起をすくい上げる


――先行事例もさほど存在しない中で運用を開始してみていかがでしたか。

緒方:最初の頃はそれこそ、「Eメールなどと同じ感覚、温度感、距離感」で、情報発信をしていたのですが、なかなか反応してもらえませんでした。

ただ、そうした中でお客さまからコメントをもらったり、それに返信していく中で、少しずつ「ソーシャルの中においての空気感を読んだコミュニケーションをする」という要素の重要性に気づき、以降それが強まっていきました。

コミュニケーションをする、という要素が強まってきたことで、ブログやメルマガとは違った、全く新しいアプローチでの運用が求められると感じながら、最適化を模索しました。

最も素敵だなと感じたのは、ツイッターを活用したことによって、今まで気がつかなかった、知ることができなかった、お客さまの声を知ることができたということです。

例えば東急ハンズで気になる商品があって在庫を確認したいというとき、電話での問い合わせはハードルが高いし、わざわざお店に行くのも大変。そんな時もツイッターならば気軽に「こういう商品あるかな?」と質問ができますし、こちらも気軽に「その商品なら渋谷店にありますよ!」と応えることができる。予想もしてなかったニーズに気付かされることがあります。

つまり、今までは「問い合わせのハードルで見えなくなっていた小さい来店喚起」はそのまま、見えずに消えてしまっていたのですが、ツイッターの気軽さが、その小さな来店喚起をすくい上げることができたのです。新しい接客の窓口として手応えを感じるようになりました。自分が現地にいなくても、そのお客さまに「ありがとうございました」を言うことができる、という部分にも、とても大きな魅力を感じました。

――運用で心がけていることはありますか。

緒方:親しみやすくコミュニケーションしやすい投稿を心がけるようにしています。店舗の場合も、仏頂面で忙しそうにしている店員より、笑顔で親しみやすい雰囲気を出している店員のほうが話しかけやすいですよね。

話しかけやすくて頼りになって、ちょっとした質問も投げかけやすい、そういう存在であるよう意識しています。

ソーシャルは本来友達同士でやるもので、我々のような企業アカウントはその友達の輪の中に図々しくもいる、という感覚も大事だと考えています。友達同士で楽しく会話している中で、いきなり企業の新商品の話が「ソーシャル上としての空気をまとわない無粋なもの」として飛び込んで来たらどうしても興が醒めてしまう。企業がソーシャルメディアユーザーの楽しさを阻害することなく、かつ思わず話しかけたくなる商品や話題にしたくなる商品情報などを投稿するという意識ですね。

イメージとしては東急ハンズのソーシャルアカウントが、皆様に、「東急ハンズに勤めている友達・仲間」くらいまでに思っていただけるようになればと考えています。

反応がないこともコミュニケーション


――確かに東急ハンズと言えば、親しみやすくちょっとゆるいツイッターキャラクターの先駆けというイメージも強いです。

緒方:ここは誤解して欲しくないことですし、ある意味先ほどと矛盾するように聞こえるかもしれませんが、ゆるい発言をするから面白い、よってフォロワーが増える、というのは1つの側面としては間違いありませんが、当然それが本質ではありません。

東急ハンズとしては、「話しかけやすい店員像」というものをソーシャル上で形作ることは、お客さまからしたらそれはそのまま「質問のしやすさ」につながりますので、「小さい来店喚起のすくい上げ」のために何よりも大事なものになります。

ゆるい発言などは会話の中やタイムライン全体の空気を読んだ結果、話しかけやすさのアップや会話のキッカケとなるためのフックのひとつとして出てくるものでしかありませんので、この部分がアカウントの主役になることはありません。自らドンドンとゆるい発言をする、ということではない、ということは強調しておきたいです。

コミュニケーションの過程として、丁寧すぎる言葉よりも気軽な言葉を使うことがもたらす価値はあるのですが、そうした一面ばかりを捉えて「企業がゆるいコミュニケーションをすればソーシャル上でウケがいい=成功」というのは本質ではありませんし、そうした風潮があることには正直危機感を覚えている面もあります。

例えば3万人のフォロワーがいたとして、1ツイートが1000RTされたとしたら運用担当者は恐らくガッツポーズをすると思いますが、それほどまでにRTされた場合であっても、「RTしていない、反応していない人の方が多い」という事実を忘れてはいけないということです。反応してくれた人と盛り上がるのもコミュニケーションですが、反応していないということもまたコミュニケーションです。反応が多くあったからと言ってその盛り上がりやテイストに固執することはバランスを欠いている以外の何者でもなく、離反を生むものであると、考えてます。とにかく、「空気を読む」ということと「バランス」を持ってコミュニケーションを積み重ねて行くことが、ポイントなのかなと。

――コミュニケーション要素が強いアカウントは、担当が変わると引き継ぎも大変そうです。

緒方:大事なのは運用方針が企業の理念、会社の方向性ときちんと合っているかです。弊社で言うと先ほどの「お客さまが話しかけやすいと感じる人物像作り」というものは、お客さまときちんとコミュニケーションし、適切なコンサルティングセールスを行うという東急ハンズの本懐のためにそれが重要であることは社員全員が理解できます。

我々がツイッターで行っていることは店舗での接客と同じことなので、接客であれば東急ハンズの社員全員が誰でも行う必須の業務。つまり、我々のソーシャルメディア運用方針はマーケティング前提ではなくお客さまとのコミュニケーションによる信頼関係の構築・蓄積であり、新しい接客の窓口です。

よって、東急ハンズの社員であれば、誰でも違和感なく運用を引き継いでいけると思います。

社会人としての常識はもちろんですが、東急ハンズとして、ツイッターやフェイスブックでポストをする先にいるのはお客さまであるという意識をしっかり持つこと。そうすれば基本的にはおかしなことにはまずなりませんし、適性はあるにせよなにか特別なスキルがいるものでもないと考えています。コミュニケーションに従事する者として一定量の空気を読む力があればなお良し、という事はあると思いますが。

――「空気を読む」のが苦手、という人も多いですが、こういう人が適しているという要素はありますか。

緒方:例えば私自身はとても人見知りなので、人と話す時に「この人は何を考えているんだろう」と想像をしてコミュニケーションをする努力はしています。その上で、言葉選びを考える、ということが大事だと思います。

ソーシャル担当を考える時にWebの知識が豊富というのも大事なのかもしれませんが、一番大事なのは相手の気持ちを考えてコミュニケーションできるかどうか。これが適性の下地になります。空気読みはその上にプラスαであると良い、ブースターです。

伝えたいと思う気持ちよりも、相手が言いたいことを想像できる気持ち。おしゃべりすることが好きな人よりも、おしゃべりを聞くことが好きな人。ボケというよりかはツッコミ、なのかもしれません。

私も、ポンポンと小気味よく会話できる人間ではないですが、ソーシャルでのコミュニケーションは実際の会話と違い、返信前に「一呼吸置く」ことができますので、考える時間を頂戴できています。ですので、私みたいな人間でも、それなりにできるのではないかなと。リアルでの接客の方が、基本的には難しいです。ハンズスタッフの、店頭での接客の様子を見るということが、ソーシャルコミュニケーションの重要なトレーニングになっています。


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